第7話 根は地に、心は宙に
「……そろそろ日が落ちるな」
レオンが空を見上げる。木々の隙間から見える空は、すでに赤みを帯びていた。
「うん……このまま森にいるのは危ないよ」
ミナが不安そうに言う。
「村に戻るかどうか、判断しないといけないな」
カイルが冷静に言った。
僕は霊体のまま、ふらりと揺れながら言う。
「……帰る……の……?」
ミナが慌てて首を振った。
「違うよ! ネムリネを置いて帰るわけじゃないよ!」
「そうだ。お前をどうするか決めないと帰れない」
「本体をどう扱うか、まだ結論が出ていないからな」
◆
カイルが杖を地面に突き、魔法陣を描き始めた。
「“魔力の流れ”を調べる。本体と霊体の繋がりがわかれば、移動のヒントになるかもしれない」
レオンが眉を上げる。
「繋がり?」
「ネムリネは霊体で自由に動けるが、本体は動かない。この差は“魔力の結びつき”にあるはずだ」
ミナが興味深そうに覗き込む。
「つまり……霊体と本体の距離が離れたらどうなるか、ってこと?」
「そうだ。試してみる価値はある」
僕は霊体のまま、ふらりと揺れながら言った。
「……離れる……?」
カイルが頷く。
「ネムリネ、少しだけ本体から離れてみてくれないか?」
僕は少し考えた。
「……眠い……けど……やってみる……」
◆
僕は霊体のまま、ゆっくりと森の奥へ漂っていく。
本体から離れるにつれ、胸の奥が少しだけざわついた。
「……ん……?」
ミナが声を上げる。
「ネムリネ、光が弱くなってる!」
「やはり……距離が影響しているな」
「戻れ、ネムリネ!」
僕はふらりと揺れながら戻る。
戻るにつれ、光が元に戻っていく。
「……ただいま……」
「おかえり……って言っていいのかな?」
「まあ、いいんじゃないか」
カイルが結論を出す。
「霊体は本体から一定距離以上離れられない。
つまり、本体を動かさない限り、ネムリネは森の奥へ行けない」
レオンがため息をつく。
「……やっぱり本体を動かすしかないのか」
「でも、どうやって……?」
「そこが問題だ」
◆
ミナがぽつりと言う。
「ねぇ……ネムリネって、契約とかできるのかな?」
「契約?」
「精霊って、契約すると力を貸してくれたり、移動したりするって聞いたことあるよ」
カイルが腕を組む。
「確かに、精霊契約は存在する。
だがネムリネは精霊かどうかも怪しい」
レオンが僕を見る。
「ネムリネ、お前……契約ってわかるか?」
僕は首を傾げた。
「……わからない……」
ミナが笑う。
「だよね……」
カイルが慎重に言う。
「契約は、精霊が“相手を信頼する”ことで成立する。
だがネムリネはまだ生まれたばかりだ。無理に契約を迫るのは危険だ」
レオンが頷く。
「それに、契約したところで本体が動く保証はない」
「うん……」
僕は霊体のまま、ふらりと揺れながら言った。
「……僕……どうすれば……?」
三人は黙り込んだ。
◆
そのとき――
森の奥から、風が吹いた。
ただの風ではない。
魔力を帯びた、重く、湿った風。
レオンが剣を構える。
「……また何か来るのか?」
「魔物?」
「いや……これは……」
カイルが呪文を唱える。
「〈探知〉……!」
光が広がり、森の奥を照らす。
「……魔物ではない。
だが……強い魔力反応がある」
ミナが震える声で言う。
「じゃあ……何?」
「精霊……かもしれない」
「精霊?」
レオンが低く呟く。
「ネムリネみたいな存在ってことか?」
カイルが首を振る。
「いや……もっと古い。
もっと……重い気配だ」
僕は霊体のまま、ふらりと揺れながら言った。
「……ねむ……でも……」
本体の蕾が、かすかに震えた。
ミナが息を呑む。
「ネムリネ、本体が……反応してる!」
「進化の兆し……?」
「いや、これは……“呼ばれている”」
レオンが剣を構え直す。
「……来るぞ」
森の奥から、静かに、しかし確実に――
“何か”がこちらへ近づいてきていた。




