第6話 本体移動という難題
名前を得た僕――ネムリネは、霊体の姿で冒険者たちの周りをふわふわと漂っていた。
淡い光をまとい、眠気をまとい、ただぼんやりと揺れている。
地面には僕の本体――球根から進化した“蕾をつけた植物”が根を張っていた。
淡い光を帯び、ゆっくりと呼吸するように脈動している。
「……さて、問題はここからだな」
レオンが腕を組んで球根を見下ろす。
「ネムリネを森の奥に移動させるって話だけど……」
ミナが眉を寄せる。
「本体がこれじゃあ、簡単には動かせないな」
カイルが冷静に言った。
僕は霊体のまま、ふらりと揺れながら言う。
「……動かない……?」
レオンが苦笑した。
「いや、動かしたいんだよ。お前を森の奥に連れていけば、村への影響も減るからな」
「……ふぅん……」
僕はあまり興味がなかった。
眠いし、動くのは面倒だ。
◆
三人は球根本体を囲んで観察を始めた。
レオンは根の張り具合を見て、顔をしかめる。
「……これ、かなり深く根を張ってるぞ」
「引っこ抜くのは無理そう?」
「無理じゃないが……折れたりしたらどうなるかわからん」
ミナは蕾を覗き込み、そっと手を伸ばしかけて――
「触るな」
レオンに止められた。
「だって、きれいだから……」
「きれいでも危険かもしれないだろ」
カイルは杖を構え、慎重に魔力を流し込む。
「〈解析〉……」
淡い光が球根を包む。
「……やはり、魔力が強い。植物というより……精霊の核に近い」
「核って……触ったら爆発したりしないよね?」
「爆発はしないだろうが、刺激を与えるのは危険だ」
僕は霊体のまま、ふらりと揺れながら言った。
「……僕……痛いの……嫌……」
三人は同時にため息をついた。
「そりゃそうだよね……」
「痛いのが好きなやつなんていない」
「となると、慎重にやるしかないな」
◆
レオンが地面を指で掘り返しながら言う。
「根は……太いのが三本、細いのが十本以上。完全に地面に定着してる」
「切っても大丈夫なのかな……?」
「精霊系の存在なら再生する可能性はあるが……」
カイルは首を振る。
「ネムリネは特殊だ。一般的な精霊の知識が通用するとは限らない」
ミナが不安そうに言う。
「ねぇ……ネムリネって、本体が傷ついたら……どうなるの?」
「……痛い……」
「やっぱり痛いんだ……!」
僕は霊体のまま、ゆっくりと頷いた。
「……痛いの……嫌……」
レオンが頭を抱える。
「……じゃあ、根を切るのは最終手段だな」
「うん……できれば避けたいよ」
「となると、根を傷つけずに掘り起こすしかない」
三人は球根を見下ろし、同時にため息をついた。
「……これ、めちゃくちゃ重そうなんだけど」
「掘るにしても、どれだけ時間がかかるんだ……?」
「そもそも、掘り起こして大丈夫なのか……?」
僕は霊体のまま、ふらりと揺れながら言った。
「……僕……どうすれば……?」
ミナが優しく微笑む。
「ネムリネは気にしなくていいよ。私たちが考えるから」
「そうだ。お前は寝てろ」
「いや、寝られると困るんだが……」
カイルが苦笑した。
◆
レオンが提案する。
「まずは周囲の土を少しずつ掘って、根の状態を確認する」
「うん、それなら安全だね」
「ただし、魔力の流れを乱さないように慎重にだ」
カイルが頷く。
「僕が魔力の流れを監視する。異常があればすぐに止める」
三人は作業の準備を始めた。
僕は霊体のまま、ふわふわと漂いながら見守る。
「……眠い……」
ミナが笑った。
「ネムリネ、寝ちゃダメだよ。寝たらまた魔物が倒れちゃうから」
「……じゃあ……起きる……」
「がんばれ……!」
レオンがスコップを取り出し、地面を掘り始める。
「……硬いな」
「森の奥の土って、こんなに固いんだ……?」
「いや、これは……ネムリネの魔力の影響だな」
カイルが言う。
「魔力が土に染み込んで、硬化している。普通の土じゃない」
レオンがため息をつく。
「……つまり、掘るのも一苦労ってことか」
「うん……」
「……はぁ……」
三人は同時に肩を落とした。
僕は霊体のまま、ふらりと揺れながら言った。
「……ごめん……?」
ミナが慌てて首を振る。
「違うよ! ネムリネは悪くない!」
「そうだ。お前はただ寝てただけだ」
「問題は……どうやって移動させるかだな」
カイルが球根を見つめながら言う。
「根を切るのは危険。掘り起こすのも困難。
となると……別の方法を考える必要がある」
レオンが腕を組む。
「別の方法って……何がある?」
「魔法で浮かせるとか?」
「いや、魔力が強すぎて制御できない可能性がある」
三人は黙り込んだ。
僕は霊体のまま、ふらりと揺れながら言った。
「……僕……どうすれば……?」
レオンが深く息を吐く。
「……正直、わからん」
「うん……どうしよう……」
「慎重に考える必要があるな」
三人は球根本体を囲み、真剣な表情で悩み始めた。
僕は霊体のまま、ふわふわと漂いながら言った。
「……眠い……」
ミナが苦笑する。
「ネムリネは……寝ないでね……?」
「……がんばる……」
こうして――
“ネムリネ本体をどう移動させるか”という難題を前に、
僕と冒険者たちは立ち止まることになった。




