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第5話 眠り精霊(?)との距離感

 名前を得た僕――ネムリネは、霊体の姿で冒険者たちの前にふわふわと浮かんでいた。

 淡い光をまとい、植物の繊維のような髪を揺らしながら、ただ眠そうに彼らを見つめている。


 地面に眠っていた球根本体は、蕾をつけた植物へと変化し、

 淡い光を帯びながら静かに脈動していた。


 「……本当に落ち着いたみたいだな」

 「うん。さっきまでの揺れも止まったし」

 「名前が“鍵”だったのは間違いないな」


 三人は、僕と本体を交互に見ていた。


 僕は、霊体のままふらりと揺れながら言う。


 「……眠い……」


 ミナが苦笑した。


 「やっぱり眠いんだね……」


 レオンは剣を下げ、少しだけ警戒を解いた。


 「ネムリネ。お前は……俺たちに敵意はないんだよな?」


 僕は、こくりと頷く。


 「……ない……眠い……」


 「眠いしか言ってないな」

 「でも、嘘はついてないと思うよ」


 カイルは僕をじっと観察しながら、杖を軽く振った。


 「〈魔力視〉」


 杖の先に淡い光が灯り、僕の霊体を包む。


 「……魔力の流れが安定している。敵意の波形もない」

 「つまり……安全ってこと?」

 「少なくとも、今はな」


 僕は、ふらりと揺れながら言った。


 「……僕……ただ……寝たい……」


 三人は同時にため息をついた。


 「……寝たいだけで、こんな森の異変が起きるのか」

 「逆にすごいよね……」

 「精霊……いや、もっと別の存在かもしれない」


 ◆


 レオンが周囲を見渡しながら言った。


 「しかし……魔物がいないのは異常だ。ネムリネ、お前……何かしたのか?」


 僕は少し考えた。


 「……寝てた……」

 「寝てただけ?」

 「……うん……」


 三人は顔を見合わせる。


 「寝てただけで魔物が消える……?」

 「そんなこと、ありえる?」

 「……魔力の吸収か、眠りの影響か……何かが働いているんだろう」


 カイルは球根本体に近づき、慎重に手をかざした。


 「……これは……植物の魔力……いや、精霊の気配も混ざっている」

 「触っても大丈夫なの?」

 「直接触れるのは危険かもしれない。魔力が強すぎる」


 僕は、霊体のまま本体を見下ろした。


 「……僕……これ……?」


 ミナが優しく頷く。


 「うん。これがネムリネの本体なんだね」


 僕は、ふらりと揺れながら言った。


 「……寝てる……」


 「本体が寝てるのか……」

 「霊体だけ起きてるってこと?」

 「……そういう存在なのかもしれないな」


 ◆


 そのとき、森の奥から微かな気配がした。


 レオンが剣を構える。


 「……何か来る」

 「魔物?」

 「いや……弱い気配だ」


 カイルが呪文を唱える。


 「〈探知〉……」


 光が広がり、森の奥を照らす。


 「……小型の魔物だ。単体」

 「よし、私が――」


 ミナが弓を構えた瞬間、僕の霊体がふわりと揺れた。


 「……眠い……」


 その言葉と同時に、森の奥から聞こえていた魔物の気配が――

 ふっ と消えた。


 「……え?」

 「……今、何が……?」

 「……魔物の気配が……消えた……?」


 三人は僕を見た。


 僕は、ただ眠そうに瞬きをした。


 「……寝た……?」


 「寝た?」

 「魔物が?」

 「……ネムリネの影響だな」


 カイルは真剣な表情で僕を見つめた。


 「ネムリネ……君は、眠気を周囲に広げているんだ」

 「……眠い……」

 「いや、君が眠いのはわかってるけど……」


 ミナが苦笑しながら言う。


 「つまり、ネムリネが眠いと……周りも眠くなるってこと?」

 「……たぶん……」


 レオンは剣を下げ、深く息を吐いた。


 「……こりゃあ、森の魔物がいなくなるわけだ」


 ◆


 三人はしばらく僕を観察していたが、

 やがてミナがぽつりと言った。


 「ねぇ……ネムリネって、これからどうするの?」


 僕は少し考えた。


 「……寝る……」

 「だよね……」

 「予想通りだな」


 カイルが真剣な表情で言う。


 「ネムリネ。この森の異変は、君が原因だ。

  だけど……君に悪意はない。むしろ、自然に近い存在だ」


 僕は、ふらりと揺れながら聞いていた。


 「……僕……邪魔……?」


 ミナが慌てて首を振る。


 「ち、違うよ! 邪魔なんかじゃない!」

 「ただ……このままだと、村の人たちが心配するだけだ」

 「そうだな。魔物が消えれば、逆に不安になる」


 僕は、少しだけ考えた。


 「……じゃあ……」

 「……じゃあ?」

 「……もっと……奥で……寝る……」


 三人は一瞬固まり――

 そして同時にため息をついた。


 「……解決策がシンプルすぎる」

 「でも……ネムリネらしいね」

 「確かに、森の奥なら村にも影響は少ないだろう」


 レオンが頷く。


 「よし。ネムリネ、森の奥に移動するのを手伝うぞ」


 僕は霊体のまま、球根本体を見下ろした。


 「……これ……どうやって……?」


 三人は球根を見つめた。


 「……根が深いな」

 「引っこ抜いたら……枯れたりしない?」

 「いや、精霊系の存在なら、根を切っても再生する可能性はあるが……」


 レオンが腕を組む。


 「……でも、勝手に抜いていいのか?」

 「ネムリネが痛がったりしたら嫌だよ……」

 「そもそも、動かせるのかどうか……」


 三人は顔を見合わせた。


 僕は、霊体のままふらりと揺れながら言った。


 「……僕……わからない……」


 レオンがため息をつく。


 「……どうするか、考えないとな」

 「うん……無理に動かすのは危険だよ」

 「まずは、ネムリネ自身の反応を見ながら……慎重にだな」


 僕は、球根本体を見つめた。


 「……動ける……のかな……?」


 霊体の僕にも、それはわからなかった。


 こうして――

 “どうやってネムリネ本体を移動させるか”という新たな問題を抱えたまま、

 僕と冒険者たちの奇妙な交流は続いていく。

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