第20話 魔族の影 ―静かに森へ滲む蒼霧の四天王―(魔族視点)
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魔族領ヴァルガンの西端。
黒霧が薄く漂う国境の森へ向かう道を、
蒼霧の四天王 リュシア と影部隊が静かに進んでいた。
人族の調査団が森へ入ったのとほぼ同じ頃――
魔族側もまた、森へ向かっていた。
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影部隊は魔族の中でも特に気配を消すことに長けた精鋭。
彼らの足音は、砂を踏む音すらほとんど響かない。
隊員の一人がリュシアに声を潜めて話しかけた。
「リュシア様……森の魔力が、いつもと違います」
リュシアは歩みを止めず、淡い霧を指先に纏わせながら答える。
「眠りの魔力だ。
柔らかく、深い……
まるで森そのものが夢を見ているようだね」
別の隊員が眉をひそめる。
「眠りの魔力がここまで届くなど……
主の誕生は本当なのですか?」
リュシアは静かに頷いた。
「ええ。
魔王様が“主の気配”を感じ取った。
あの方の感知は絶対だよ」
影部隊は互いに視線を交わし、緊張を深めた。
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森の入口に到着すると、空気が一変した。
影部隊の一人が思わず息を呑む。
「……これは……」
森から流れ出る魔力は、
人族が感じた“優しい眠り”とは違い、
魔族にはより鮮明に、より深く伝わってくる。
「心が……沈むような……
いや、落ち着く……?」
「眠りの魔力に触れると、精神が安定するんだ。
だが油断すると深く沈む。
気を引き締めて」
リュシアは森の奥を見つめ、静かに言った。
「この森は、主を守っている。
私たちは“客”として入るんだ。
森を荒らさないように」
影部隊は無言で頷き、森へ踏み入れた。
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森の中は、まるで夢の中のようだった。
木々は眠り、魔物たちは丸くなり、
鳥たちは枝の上で静かに目を閉じている。
影部隊の隊員が囁く。
「……魔物まで眠っている……
こんな現象、見たことがありません」
リュシアは霧を漂わせながら、森の魔力を読み取る。
「眠りの主は、森と繋がっている。
森全体が“ねどこ”になっているんだ」
隊員が首をかしげる。
「ねどこ……?」
「眠る場所、という意味だよ。
主にとって森は家そのものなんだ」
影部隊は静かに森の奥へ進んでいく。
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進むほど、眠りの魔力は濃くなっていく。
影部隊の一人がふらりと足を止めた。
「……少し……眠気が……」
リュシアが霧を纏わせ、隊員の肩に触れる。
「深呼吸して。
魔力を整えれば耐えられる。
眠りの主は害意を持っていないけれど、
魔族は魔力に敏感だから影響が強く出るんだ」
隊員は息を整え、再び歩き始めた。
「……ありがとうございます、リュシア様」
「無理はしないで。
森の中心はもっと濃いはずだからね」
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森の奥へ進むほど、
リュシアの霧が淡く震え始めた。
隊員が気づく。
「リュシア様……霧が……」
「ええ。
主の気配が強くなってきた。
この先に“核”がある」
影部隊は緊張を高めながら進む。
森の中心へ向かう道は、
静かで、神聖で、どこか暖かい。
リュシアは小さく呟いた。
「……眠りの主よ。
あなたが敵でないなら、
私たちはあなたを守る側に回る」
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森の主が眠る中心へ――
人族と魔族、二つの影が近づいていく。




