第19話 人族動く ―眠りの森へ向かう調査団―
王都エルディアに、ギルドからの報告が届いたのは昼前だった。
「森の奥に“眠りの子”と呼ばれる存在がいる」
「攻撃性はなく、森の中心で進化の眠りに入った」
「ドラゴンがその存在を守っている」
この報告は、王城の空気を一変させた。
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重厚な扉が閉じられ、緊急会議が始まった。
王国軍総司令官 ガルド・レイヴァン が机を叩く。
「ドラゴンが守っているだと?
森の主の誕生など前例がない!」
大臣 セオドア・レインハルト は冷静に言う。
「しかし、ギルドの報告は信頼性が高い。
森の魔力の異常は事実です。
放置すれば王都に影響が出る可能性があります」
国王 アルヴェルト・エルディア三世 は静かに頷いた。
「討伐ではなく、調査だ。
森を刺激するな。“眠りの子”が敵意を持たぬなら、まずは状況を把握することが先決だ」
ガルド将軍は渋々頷いた。
「……では、精鋭を少数だけ送る。
森の中心まで行ける者を選抜しよう」
こうして王国は、森の調査団派遣を正式に決定した。
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その日の夕刻、ギルド本部に王城からの使者が到着した。
「王城より通達。
森の調査団を派遣する。
ギルドは案内役を選抜し、調査団に同行させよ」
ギルドマスターは書状を読み、深く息を吐いた。
「……やはり来たか。
森の主の誕生は、国にとっても重大事だからな…… レオンたちを呼んでくれ」
そして、レオンたちを呼び出した。
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ギルドマスターは三人を見つめた。
「王城から正式に依頼が来た。
お前たちには“森の案内役”を任せる。
調査団と共に森へ戻れ」
ミナが息を呑む。
「また……森へ……?」
カイルが頷く。
「ネムリネを守るためだ。
人族が誤解して攻撃したら……ネムリネが危ない」
レオンは拳を握った。
「行こう。
ネムリネは俺たちの仲間だ」
ギルドマスターは真剣な声で言った。
「森の主は繊細なんだろ。
進化を妨げれば、森全体が暴走する可能性もあるうえにドラゴンがどう動くかわからん。
頼んだぞ、レオン」
レオンは力強く頷いた。
「任せてください」
三人はすぐに準備を整えた。
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翌朝。
王国軍の精鋭調査団が街道に集結していた。
隊長がレオンたちに向き直る。
「案内を頼む。
森の内部は眠りの魔力で満ちていると聞く。
無用な戦闘は避けたい」
レオンは頷いた。
「ネムリネは危険じゃない。
ただ眠りたいだけなんだ」
ミナは森の方向を見つめる。
「……ネムリネ、まだ眠ってるかな……」
カイルが魔力視を発動し、森の気配を探る。
「魔力は安定してる。
進化の眠りの最中だと思う」
隊長は一同を見渡し、声を低くした。
「森に着くまでに、できるだけ情報を知っておきたい。
お前たちは森の主とドラゴンに接触したのだろう?」
レオンが頷き、簡潔に答える。
「森の主はネムリネっていう。
植物の魔物であり、精霊のような存在だ。
静かに眠りたいだけのやつだな」
隊員の一人が恐る恐る口を開く。
「その……眠りの魔力って、俺たちにも影響しますか? 眠らされたりは……?」
カイルが説明する。
「影響はあるけど、害意はない。
眠りたくなるような心地よさはあるけど、無理やり眠らされる感じじゃない。
ただ、近づきすぎると深く眠っちゃう可能性はあるから、注意は必要だね」
別の隊員が続ける。
「ドラゴンは……敵対的なんですか?」
ミナが首を振る。
「話した感じだと、攻撃的ではないよね。
ネムリネを“眠りの子”って呼んで、大事にしてた」
レオンも付け加える。
「そうだな。
魔力は膨大だし、知識も豊富なのはうかがえた。
余計なことをしなければ、対話はできると思う」
隊長は腕を組み、短く息を吐いた。
「なるほどな…… そうなると、できるだけ静かに行動するのは必須か。
魔力の使用はどうだ?」
カイルが即答する。
「できるだけ避けるべきだと思う。
ドラゴンはネムリネの魔力を感知してこの森に来た。森に入った段階で、俺たちの魔力も感知されるはずだ」
隊長は頷きながら言う。
「刺激をしないなら、魔力は使用しない方が無難か…… 武器は抜かず、魔術も極力封印だ。
他に気をつけるべき点はあるか?」
レオンが少し考えてから答える。
「ネムリネは、怖がらせると萎れそうになる。
大声や怒鳴り声は避けてほしい。ゆっくり、静かに近づいてやってくれ」
ミナも続ける。
「それと……ネムリネは“ねどこ”って言葉をすごく大事にしてた。 森の中心は、ネムリネにとって家みたいな場所だから…… 踏み荒らしたり、勝手に触ったりしないでほしい」
隊長は隊員たちに向き直る。
「聞いたな。森の主を怒らせるな。
ここから先は、戦場ではなく“客として訪れる場所”だと思え」
隊員たちは緊張した面持ちで頷いた。
「了解です、隊長」
こうして、調査団は森へ向かって歩き始めた。
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森の入口に到着すると、空気が一変した。
「……静かだ……」
兵士の一人が呟く。
木々は眠り、魔物たちは丸くなり、鳥たちは枝の上で静かに目を閉じている。
まるで森全体が、ネムリネの夢の中に沈んでいるようだった。
隊長が小声で言う。
「先導を頼む。全員、慎重に進め。森の主を刺激するな」
レオンたちは先頭に立ち、調査団を森の奥へと導いた。
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森の魔力は、進むほど濃くなっていく。
ミナが小さく呟く。
「……ネムリネの魔力……優しい……」
カイルが頷く。
「眠りの魔力は精神を落ち着かせる。でも、これだけ濃いのは……進化の影響だ」
レオンは前を見据えた。
「森の中心はもうすぐだ。ネムリネ……無事でいてくれ」
調査団は森の中心へ向かって進み続けた。
その足音は静かで、慎重で、まるで神聖な場所へ向かう巡礼者のようだった。
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人族が森へ入ったその頃。森の反対側では、魔族の影部隊が静かに森へ踏み入れていた。
だが、まだ互いの存在には気づいていない。
森の主が眠る中心へ―― 人族と魔族、二つの影が近づいていく。




