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第18話 眠りの核 ―ネムリネ進化の刻―

 森の中心は、静寂に包まれていた。


 風は止まり、木々は揺れず、

 ただ淡い光だけが泉の周囲を照らしている。


 その光の中心に――

 ネムリネの蕾があった。


 ふわり、ふわりと呼吸するように光を脈打たせ、

森全体へと優しい魔力を流し続けている。


 ドラゴンは蕾の前で静かに目を閉じていた。


 「眠りの子よ……

  そろそろだ。

  森が、お前を迎える準備を整えた」


 蕾が、かすかに震えた。


---


 ――眠りの子よ。


 あの声が、再びネムリネの胸の奥に響いた。


 ――ここは“核”。

  森の記憶が眠る場所。

  お前が進化するためのゆりかご。


 霊体のネムリネがふわりと浮かび上がる。


 「……ねむ……

  ここ……あったかい……

  ねむれる……」


 ――眠るがいい。

  眠りの子よ。

  お前の“願い”は聞いた。


 ネムリネの願い――

 それは、“自分の眠る場所を守りたい”という、

 小さくて静かな、本能のような願いだった。


 ――眠りを広げるのではなく、

  眠りを守る者となれ。


 泉の光が強くなり、

 ネムリネの霊体を包み込んだ。


---


 蕾がゆっくりと開き始めた。


 花が咲くような華やかさではなく、

 眠りの子らしい、静かで柔らかな開き方だった。


 ドラゴンが低く呟く。


 「始まったか……

  眠りの子よ、森と共にあれ」


 蕾の内部から、淡い光の粒が溢れ出す。


 それは森の根から回収した魔力。

 森と繋がっていた“道”を畳み、

 ネムリネ自身の力として取り込んだ証。


 光の粒は泉の水と混ざり、

 ゆっくりと蕾へ戻っていく。


 まるで森そのものが、

 ネムリネを育てているようだった。


---


 蕾の光が強まり、

 霊体のネムリネがふわりと揺れた。


 「……ねむ……

  あったかい……

  もり……すき……

  ここ……ぼくの……ねどこ……」


 その言葉に応えるように、

 森の中心の泉が淡く輝いた。


 ネムリネの霊体が、ゆっくりと形を変えていく。


 輪郭が少しだけはっきりし、

 淡い光の尾が揺れ、

 眠りの魔力が霧のように漂い始めた。


 ドラゴンが目を細める。


 「……眠りの子よ。

  お前は“核”と繋がった。

  これで森は、お前を主として認めるだろう」


 ネムリネはふわりと揺れながら答えた。


 「……ぼく……ねむる……

  ここ……まもる……

  ぼくの……ねどこ……」


 その言葉は、

 幼いながらも“主”としての意思だった。


---


 森が――揺れた。


 木々がざわめき、

 地面が柔らかく脈動し、

 森全体がネムリネの進化を祝福するように光を放つ。


 鳥たちが眠ったまま羽を震わせ、

 魔物たちが夢の中で静かに身を丸める。


 森のすべてが、

 ネムリネの進化を受け入れていた。


 ドラゴンが静かに言う。


 「眠りの子よ……

  お前はもう“種”ではない。

  森の主へと近づいた」


 ネムリネの霊体は、

 まるで眠るようにゆっくりと蕾へ戻っていった。


 蕾は完全に閉じ、

 淡い光を脈打たせながら静かに眠り始めた。


---


 ドラゴンは蕾の前で静かに頭を垂れた。


 「眠りの子よ……

  進化の眠りは長い。

  だが、恐れることはない。

  この森は……お前の家だ。

  我が翼の下で眠るがいい。

  邪魔するものがあれば、すべて私が排除しよう」


 蕾は、まるで返事をするように光を強めた。


 森の中心は再び静寂に包まれた。


 だがその静寂は、

 ただの眠りではない。


 新たな主が生まれる前の、神聖な眠りだった。

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