第14話 森の中心へ ―進化の前夜―
ドラゴンの背に乗せられた僕――ネムリネの蕾は、
淡い光を放ちながら、森の奥へと運ばれていった。
森はまだ眠っている。
眠りの波動が残した静寂は、まるで世界そのものが息を潜めているようだった。
ミナが歩きながら、そっと蕾に声をかける。
「ネムリネ……怖くない?」
霊体の僕はふわりと揺れながら答えた。
「……ねむ……
でも……こわくない……
もりが……まもってる……」
ミナは微笑み、レオンとカイルも安心したように息をついた。
◆
やがて――
森の空気が変わった。
風が止まり、木々のざわめきが消え、
代わりに、どこからともなく“脈動”が聞こえてくる。
ドクン……
ドクン……
カイルが魔力視を発動し、息を呑む。
「……すごい……
魔力が……森全体から中心へ流れてる……!」
レオンが眉をひそめる。
「まるで……森そのものが生きてるみたいだな」
ドラゴンが静かに言う。
「森は生きている。
眠りの子が生まれたことで……森は“主”を迎える準備を始めたのだ」
ミナが小さく呟く。
「主……」
◆
森の中心へ近づくほど、
空気は澄み、光は柔らかく、
まるで別世界のような静けさが広がっていた。
そして――
視界が開けた。
そこは、巨大な円形の空間だった。
天井のように枝葉が絡み合い、
中央には淡い光を放つ泉が静かに揺れている。
レオンが息を呑む。
「……ここが……森の中心……」
カイルが震える声で言う。
「魔力が……濃い……
でも……優しい……」
ミナは泉を見つめながら呟く。
「ここ……ネムリネに似てる……」
ドラゴンが頷く。
「ここが“森の核”。
眠りの子が根付く場所だ」
◆
ドラゴンはゆっくりと蕾を泉の前へ降ろした。
僕の霊体はふらりと揺れ、泉の光に引き寄せられるように近づく。
「……あ……
ここ……あったかい……
ねむれる……」
ミナが心配そうに言う。
「ネムリネ……大丈夫?」
僕は小さく頷いた。
「……ねむるの……すき……
でも……いまは……ちがう……
ここ……ぼくを……よんでる……」
その瞬間――
泉の光が強くなり、僕の霊体を包み込んだ。
◆
――眠りの子よ。
また、あの声が聞こえた。
――ここは“核”。
森の記憶が眠る場所。
お前が進化するための“ゆりかご”。
「……ぼく……しんか……?」
――そうだ。
眠りを守る者として、
森と共に在る者として、
お前は“形”を得る。
「……かたち……?」
――選べ。
眠りを広げる力か。
眠りを癒す力か。
眠りを導く力か。
胸の奥が震える。
――眠りの子よ。
お前は……何を望む?
僕は答えた。
「……ぼく……
じぶんの……ねむる……ばしょ……
まもりたい……
もり……ぼくの……ねどこ……
だから……まもる……」
声が優しく笑った。
――ならば、守り手となれ。
眠りを“脅かすもの”から森を守る力を。
泉の光がさらに強くなり、
僕の霊体はゆっくりと蕾へ戻っていく。
◆
ドラゴンが低く言う。
「眠りの子は……進化の準備に入った。
ここから先は、我らの手は届かぬ」
ミナが不安そうに言う。
「ネムリネ……大丈夫だよね……?」
レオンが拳を握る。
「俺たちにできることは……あるのか?」
ドラゴンは首を振った。
「ない。
眠りの子の進化は、森そのものが見守る儀式。
我らが干渉してはならぬ」
カイルが息を呑む。
「じゃあ……俺たちは……」
ドラゴンが静かに告げる。
「森を出て、ギルドへ戻れ。
眠りの波動は外にも届いた。
必ず調査が入る。
お前たちが報告しなければ、
森は“脅威”として討伐対象になるだろう」
三人は顔を見合わせた。
ミナが決意を込めて言う。
「……ネムリネを守るために……行こう」
レオンが頷く。
「ギルドに伝える。森は危険じゃないって」
カイルが拳を握る。
「ネムリネは……俺たちの仲間だ」
◆
蕾は静かに光を放ち、
森の中心の泉の前で眠りについた。
その光は、まるで呼吸するように脈打ち、
森全体へと優しい魔力を流していく。
ドラゴンが静かに言う。
「眠りの子よ……
お前は、森の主となる。
我が庇護のもと……進化を遂げよ」
蕾は、まるで返事をするように光を強めた。
そして冒険者たちは――
ネムリネを残し、森を後にした。
その背中を、森の風が静かに見送っていた。




