第11話 揺らぐ森、揺らぐ魔力
遅くなりました。
アイディアは溜まっても話まとめるの難しい
レオンとミナが泉へ手を伸ばした瞬間――
青白い光が爆ぜ、空気が震えた。
ジュワッ……!
魔力の渦が二人の腕にまとわりつき、まるで引きずり込もうとするかのように蠢く。
ミナが叫ぶ。
「つ、冷たい……! これ……魔力が……!」
レオンは歯を食いしばり、腕を押し込む。
「ミナ、離れるな! 一気に掬うぞ!」
だが、泉の渦は強すぎた。
二人の腕を押し返し、まるで拒絶するように光が跳ね返る。
カイルが後方で魔力視を発動し、叫んだ。
「駄目だ! 今のままじゃ渦が強すぎる!
このままじゃ二人とも飲まれる!!」
ドラゴンが低く唸る。
「泉は“弱い魔力”を好む。
だが今は暴走している……!
人間の魔力でも押し返されるぞ!」
レオンが叫ぶ。
「じゃあどうすればいいんだ!!」
カイルは歯を食いしばり、杖を構えた。
「……僕が、隙を作る!!」
ミナが振り返る。
「カイル!? でも魔力が強いと――」
「触れなければいい!
“干渉を抑える魔法”なら、泉に触れずに渦を弱められる!!」
ドラゴンが目を見開く。
「……なるほど。
魔力を直接ぶつけるのではなく、渦の“流れ”だけを乱すのか」
カイルは頷き、深く息を吸った。
「レオン、ミナ! 僕が合図したら一気に掬って!!
長くは持たないから……絶対に逃さないで!!」
二人は力強く頷いた。
「任せろ!」
「絶対に成功させる!」
◆
カイルは杖を泉へ向け、呪文を紡ぎ始めた。
「――〈魔力干渉・逆流制御〉!!」
杖の先から淡い光が放たれ、泉の渦へ触れずに“流れ”だけを掴むように広がっていく。
ゴウッ……!
泉の渦が一瞬だけ揺らぎ、光が弱まった。
レオンが叫ぶ。
「今か!?」
カイルは額に汗を浮かべながら叫んだ。
「まだ……! もう少し……!」
泉の魔力が逆流し、カイルの魔法を押し返そうとする。
ビリビリッ……!
カイルの腕が痺れ、膝が震える。
「くっ……! 持っていかれる……!」
ドラゴンが低く唸る。
「耐えろ、人間!
お前の魔力は泉に触れていない……まだ押し返せる!!」
カイルは歯を食いしばり、さらに魔力を操作した。
「――今だ!!
渦を反らした!!」
◆
レオンとミナは同時に泉へ手を伸ばした。
チャプッ……!
小瓶が泉に沈み、青白い光が流れ込む。
ミナが叫ぶ。
「入った……! 水が……!」
だが――
ゴウウウッ!!
泉が咆哮したかのように光を噴き上げた。
カイルの魔法が弾け飛ぶ。
「うわっ……!!」
ミナが吹き飛ばされそうになる。
「きゃああっ!!」
レオンがミナの腕を掴み、全力で引き戻す。
「ミナ、離れるな!!」
ドラゴンが翼を広げ、二人の前に立ちはだかった。
「退けぇぇ!!」
巨大な翼が風を巻き起こし、泉の暴走した魔力を押し返す。
光が弾け、地面が震え、木々がざわめく。
カイルは地面に膝をつきながらも叫んだ。
「レオン! ミナ! 無事か!!」
レオンが息を吐く。
「危なかった……!」
ドラゴンが二人を見下ろし、低く言った。
「人間ども、瓶は無事か!?」
ミナが震える声で答える。
「ぶ、無事……!」
ドラゴンは満足げに頷いた。
「よくやった。
そして……魔術師よ。
お前の魔法がなければ成功はなかった」
カイルは息を切らしながらも微笑んだ。
「……二人が掬ってくれたからですよ」
ミナは小瓶を胸に抱きしめる。
「これで……ネムリネを助けられる……!」
レオンが頷く。
「急いで戻るぞ。森が……まだ暴れてる」
ドラゴンが森の奥を振り返る。
「帰り道も安全ではない。
森はまだ“目覚めている”」
三人は頷き、走り出した。
◆
帰路は、来た時以上に危険だった。
木々はざわめき、枝が鞭のようにしなり、道を塞ぐ。
地面の根は暴れ、足元を掴もうと蠢く。
レオンが剣で根を断ち切りながら叫ぶ。
「くそっ……さっきよりひどいぞ!」
ミナが息を切らしながら走る。
「泉の魔力が……森全体に広がってる……!」
カイルが魔力視を発動し、叫ぶ。
「右だ! そっちは魔力が濃すぎる、回り込め!!」
ドラゴンが先頭で木々を押しのけながら進む。
「急げ!
泉の水が森の魔力を刺激している。
長くは持たん!」
三人は必死に走った。
◆
一方その頃――
僕は霊体のまま、ふわふわと漂いながら待っていた。
本体の蕾は、時折ふるふると震え、淡い光を放っている。
「……みんな……だいじょうぶ……?」
胸の奥がざわざわする。
泉の暴走した魔力が、遠くからでも伝わってくる。
「……こわい……」
霊体が揺れ、光が弱まる。
その時――
本体の蕾が、ぽうっと強く光った。
「……え……?」
蕾の奥から、森の魔力が流れ込んでくるような感覚がした。
――苦しい。
――暴れている。
――眠りたい。
森の“声”が聞こえた気がした。
僕は霊体のまま、ふらふらと揺れながら呟いた。
「……ねむ……って……いいよ……」
その瞬間――
本体の蕾から、柔らかい眠りの波が広がった。
ふわり……
森の木々のざわめきが弱まり、暴れていた根が動きを止める。
風の刃も消え、森全体が静かに沈んでいく。
まるで――
森そのものが、深い眠りに落ちていくように。
◆
森の出口が見えた時、レオンが叫んだ。
「見えた! もう少しだ!!」
ミナが小瓶を抱えたまま走る。
「ネムリネ……待ってて……!」
カイルが後ろを振り返る。
「魔力の渦が……弱まってる……?
いや……これは……眠ってる……?」
ドラゴンが目を見開いた。
「……眠りの子が……森を鎮めたのか……!」
三人は驚きながらも走り抜け、森の出口へ飛び出した。
◆
そして――
僕の前に、三人が戻ってきた。
ミナが息を切らしながら小瓶を掲げる。
「ネムリネ……! 持ってきたよ……!」
レオンが笑う。
「なんとか……間に合ったな」
カイルが膝に手をつき、息を整えながら言う。
「森の魔力……ネムリネが眠らせたんだね……」
僕は霊体のまま、ふらふらと揺れながら言った。
「……みんな……おかえり……」
本体の蕾が、嬉しそうに光を放つ。
ドラゴンがゆっくりと近づき、低く言った。
「さあ……眠りの子よ。
泉の水を受け入れる準備をしろ。
ここからが……本当の試練だ」
僕の本体の蕾は、まるで返事をするように震えた。




