第10話 調律の泉へ
ドラゴンの案内で、冒険者三人は森の奥へと歩き出した。
僕――ネムリネは霊体のまま、ふわふわと漂いながら見送るしかなかった。
本体の蕾は、静かに光を放っている。
「……きをつけて……」
ミナが振り返り、優しく微笑む。
「うん。ネムリネも、ちゃんと待っててね」
レオンは剣の柄を握り直し、短く言う。
「すぐ戻る」
カイルは僕の霊体に視線を合わせ、真剣な声で言った。
「ネムリネ、魔力が乱れたらすぐ知らせてくれ。霊体なら声は届くはずだ」
僕はこくりと頷いた。
「……がんばる……」
ドラゴンが翼を軽く広げ、森の奥を示す。
「行くぞ、人間たち。泉は遠い。
そして……危険だ」
三人は頷き、森の闇へと消えていった。
◆
森の奥は、これまでの場所とはまるで違った。
木々は高く、太く、まるで古代の遺跡の柱のようにそびえ立っている。
葉の隙間から差し込む光は少なく、昼間でも薄暗い。
ミナが小声で言う。
「……空気が違うね。重いというか……」
カイルが頷く。
「魔力が濃い。ネムリネの魔力とは別種の……古い魔力だ」
レオンは剣を抜き、周囲を警戒する。
「気を抜くなよ。何が出るかわからん」
ドラゴンはゆっくりと歩きながら言った。
「この森の深層は、魔物よりも“自然”そのものが脅威となる。
木々も、風も、土も……すべてが生きている」
ミナがごくりと唾を飲む。
「……怖いこと言わないでよ……」
カイルが苦笑する。
「でも、事実だ。気をつけよう」
◆
その時だった。
バキッ……!
突然、一本の太い木の枝が、まるで意志を持ったかのようにしなり、
三人の頭上へ振り下ろされた。
レオンが叫ぶ。
「伏せろ!」
三人は地面に飛び込み、枝は空を切って地面を抉った。
ミナが震える声で言う。
「な、なに今の……木が……動いた……?」
ドラゴンが低く唸る。
「泉の魔力が暴れている。
森の“守り”が過敏になっているのだ」
カイルが顔を上げる。
「つまり……森そのものが敵になっているってことか」
レオンが剣を構え直す。
「進むしかない。気をつけろ!」
◆
森の奥へ進むほど、異変は激しくなった。
地面の根が蛇のようにうねり、足を取ろうと絡みついてくる。
木々の間から吹く風は鋭く、刃のように頬を切った。
ミナが悲鳴を上げる。
「きゃっ……!」
レオンがすぐに駆け寄る。
「ミナ、大丈夫か!」
ミナは頬を押さえながら頷く。
「う、うん……かすり傷……」
カイルが魔法で風を払いながら言う。
「泉の魔力が……ここまで影響しているなんて……!」
ドラゴンは振り返り、三人に言った。
「急ぐぞ。
泉が完全に暴走すれば、この森は魔力に飲まれる」
三人は頷き、走り出した。
◆
やがて――
森が開け、光が差し込む場所に出た。
そこには、澄んだ水を湛える小さな泉があった。
だが、その水面は静かではない。
青白い光が渦を巻き、時折、火花のように魔力が弾けている。
ミナが息を呑む。
「……これが……調律の泉……?」
カイルが震える声で言う。
「魔力が……荒れている。
ネムリネの魔力に反応して……暴走しかけているんだ」
レオンが剣を構えたまま言う。
「どうやって水を取るんだ?」
ドラゴンは泉に近づき、低く言った。
「泉の水は、魔力の渦が弱まった瞬間にしか触れない。
その一瞬を逃せば……命はない」
三人は息を呑む。
「命が……?」
「そんな危険なの……?」
「どうすれば……?」
ドラゴンは三人を見渡し、静かに言った。
「泉は“弱い魔力”を好む。
魔力の強い者ほど、渦に弾かれ、飲まれる」
カイルが息を呑む。
「つまり……僕は前に出られない、ということですか?」
ドラゴンは頷いた。
「そうだ。
魔力の高い者が泉に触れれば、渦が暴れ、全員が危険に晒される」
ミナが不安そうに言う。
「じゃあ……誰が水を取るの?」
ドラゴンはレオンとミナを見た。
「魔力の少ない者――お前たち二人だ。
泉に近づけるのは、お前たちだけ」
レオンは短く息を吐く。
「……なるほどな。俺たちが行くしかないってわけか」
ミナは震える手を握りしめる。
「……わかった。やるよ」
カイルは悔しそうに拳を握った。
「僕は……何をすれば?」
ドラゴンはカイルを見つめ、静かに言った。
「お前は後方で“魔力の流れ”を読むのだ。
渦が弱まる瞬間を見極め、二人に指示を出せ。
それが……最も重要な役目だ」
カイルは驚き、そして頷いた。
「……わかりました。必ず成功させます」
ドラゴンは泉を見つめ、低く言った。
「渦が弱まる瞬間を見極めろ。
その時に――水を掬え」
三人は泉の前に並び、魔力の渦が弱まる瞬間を待った。
泉は、まるで呼吸するように光を強め、弱めている。
カイルが魔力視を発動し、声を張る。
「……まだだ……まだ……!」
ミナが小さく呟く。
「ネムリネ……待っててね……」
そして――
渦が一瞬、弱まった。
カイルが叫ぶ。
「今だ、行け!!」
レオンとミナは同時に泉へ手を伸ばした。
ネムリネのスキルのまとめ書こうかと思ってたのですが、ネムリネ思ったより成長しなかった。
1章?終わりくらいにまとめみたいの書こうかと思います。




