聖女から授かったSSSスキル『簒奪』
教会の扉が、勢いよく開いた。
「聖女様! 大変です!」
飛び込んできた村長は、祭壇の前に立っている俺を見てぎょっとした。
「なっ……アイン!? もうケガはいいのか!?」
「説明は後です。何があったんですか」
俺が問うと、村長は青い顔のままシオンへ向き直った。
「見張りから報告がありました! 山賊どもがこちらへ向かってきております! 数も多い! どうか、お力をお貸しください!」
彼女は小さく目を伏せ、静かに言った。
「……やはり来ましたか」
「知っているんですか?」
「ええ。これがワタナベのやり方です」
声は落ち着いていたが、その目は冷たかった。
「自分好みの娘を拐った後、立ち寄った村に野盗を差し向けて痕跡を消す。悪評が広まらないようにするためです。勇者とは思えません」
そう言うと悲しそうに首を振った。ワタナベはアメリを奪っただけじゃない。村ごと消すつもりだったのか。
「俺も行きます」
即座に言うと、村長が慌てて俺を見た。
「む、無茶だ! 昨日あんな大怪我を――」
俺は剣をつかんだ。
「ここで逃げたら、アメリに顔向けできない」
シオンは一瞬だけ俺を見つめ、それから静かにうなずいた。
「分かりました。参りましょう」
二人で村の入口へ向かう途中、見張り役の若い男が息を切らして駆け込んできた。
「来ます! もうすぐです! 道の先に五十人近く……!」
村人たちの間にどよめきが走る。
入口の前まで出ると、土煙の向こうから武器を持った山賊がぞろぞろと現れた。汚れた服に、無精髭。悪を自覚していない下卑た笑い声。
俺は拳をかたく握った。
「いたぞ!」
「男は殺せ! 女子供は好きにしろ!」
「へへっ、村を焼く前に楽しませてもらうか!」
その声を聞いた瞬間、腹の底から怒りが湧いた。ワタナベの差し金だと分かっているせいで、目の前の連中全てがあいつと重なって見えた。
先頭の大男が、こっちを見てにやりと笑う。筋肉の塊みたいな体で、両手斧を肩に担いでいた。
「おいおい、ガキと女が出てきたぞ」
「先に男を潰せ!」
「――スキル《瞬動》!」
大男が地面を蹴った。速い。巨体のくせに、信じられない速さで間合いを詰めてくる。
マズい! そう思った時にはもう斧が振り下ろされていた。
「聖壁よ、我らを包め。邪なる刃を拒む淡き守り――《レイ・プロテクション》」
澄んだ声が響く。
次の瞬間、俺たちの周囲に薄い光の膜が張られ、斧がそこへ叩きつけられた。
ガァンッ!
鈍い音と共に、大斧が弾かれる。
「なっ!?」
大男の目が見開かれた。その隙を、俺は見逃さなかった。
踏み込み、剣を振る。男の胴が真っ二つになり、血が飛んだ。
「ご、ぁ……」
崩れ落ちるそいつの体から、熱い何かが流れ込んできた。全身に行き渡るのは力だ。それも、ただの力じゃない。筋力、踏み込み、刃を振るう重さの乗せ方。
相手の持っていた力が、そのまま俺に流れ込んでくる。
「これが……簒奪」
「アインさん!」
シオンの声で顔を上げると、もう次の山賊たちが迫っていた。
「死ねえっ!」
「スキル《瞬動》!!!」
ズバアアアッ!
奪ったばかりのスキルを使い、剣を振り上げて突っ込んでくる男の懐へ潜る。切りかかってきた山賊を一刀のもとに伏した。
一人。もう一人。
首筋を裂き、胸を貫き、蹴り飛ばす。
倒れるたびに力が流れ込んでくる。剣の振り方、身のこなし、気配の読み方。奪う側だった奴らから、今度は俺が奪っていた。
「ひっ……!」
「囲め! 一気に潰せ!」
山賊どもが一斉に飛びかかってくる。
「蒼雷よ、罪ある者を穿て。空を裂きし裁きの槍――《ブルー・ボルト》」
シオンの詠唱と共に、青白い雷が走った。
前に出ていた山賊がまとめて吹き飛ぶ。焦げた匂いが広がる。
「ぎゃあああっ!」
「ひるむな! 所詮二人だ!」
知らない声が怒鳴る。だが、その声もすぐに途切れた。俺が斬ったからだ。
もう止まらなかった。
前から来るなら斬る。横から来たやつは蹴り飛ばす。後ろに回ろうとするなら振り返りざまに喉を裂く。シオンの援護魔法がある。簒奪で力も増していく。負けるはずがない。
あっという間の事だった。
気づけば村の入口には山賊の死体が散らばり、立っているのは俺とシオンだけだ。最後まで残っていたのは、さっきの大男の後ろで指示を飛ばしていた頭領らしき男だった。
顔に大きな傷がある。だが普段は勇猛なその男も、今は子犬のように震え上がっていた。
「ば、化け物……!」
男が後ずさる。
「た、助けてくれ! 頼む! もうしねえ! 二度とこの村には手を出さねえから!」
俺はゆっくりそいつに近づいた。
「その命乞いを、お前らは一度でも聞いたことがあるのか? 奪われる側の気持ちを知って、後悔しながら死ね」
「くそぉ! このクソガキがああぁ!!!」
山賊の頭領が隠し持っていた短剣で俺を狙った。
————キン
だがそのナイフが俺に届くことはなかった。男の首が飛び、地面を転がった。
静寂が戻る。
俺は小さく息を吐いて、剣先から血を払った。体の奥に、まだ熱が残っている。山賊どもから流れ込んできた力だ。何人かが持っていた妙な感覚も残っていた。足場の悪い場所で踏ん張る技術、気配を察知する勘、刃物の扱い。中には簡単な魔法を使える奴もいた。
これが今は全て、俺の力だ。
その時だった。
一人、地面を這うようにして逃げ出した山賊がいた。まだ生きていたらしい。
「ひ、ひぃっ!」
剣を抜くほどの距離でもない。俺は足元の石を拾って投げた。
「《投擲》!」
石ころは真っすぐ飛び、山賊の後頭部を打ち抜いた。男はそのまま地面に倒れ、二度と動かなかった。
俺は自分の手を見た。今のも前なら無理だった。コントロールはもちろん、石ころ一つで相手を仕留められるほどの力もなかった。
「……すごいな」
思わず漏れると、シオンがゆっくり歩いてきた。
「それが簒奪です。さっきスキルを得たばかりなのに、もうここまで使いこなすなんて……。やはりあなたに声を掛けて正解でした」
彼女は山賊たちの死体を一瞥し、それから俺を見上げた。
「簒奪はあなたの憎悪に反応して、殺した相手や触れた相手の力の一部を奪います。筋力や敏捷だけではありません。技術、資質、時にはスキルまで取り込むことがあります」
「何でも奪えるのか」
「ええ。ですが、だからこそ危険です」
シオンの顔が引き締まる。
「このスキルはあまりにも強い。正しい心を失えば、いずれ奪うこと自体が快楽になります。そうなれば、あなたもワタナベと同じになるでしょう」
そういうと、シオンは少しだけ顔を伏せた。
俺はシオンを見た。何も言わず、その手を取る。
白く細い手だ。先程と同じく暖かく、絹のように優しい手触りだった。
「大丈夫です。発動しない」
「ふ、ふふふ不敬です! 聖女の手を気安く触るなんてあり得ません!」
シオンの耳が少し赤くなる。だが、振り解こうとはしなかった。
俺はその手を握ったまま、はっきりと言った。
「俺は悪人からしか奪いません。ワタナベとは違う。信じてください」
「……その誓いを忘れないでください」
そう言ったシオンの耳が、ますます赤くなった。
「もう、いつまで握ってるんですか!」
わずかに頬を膨らませた後、シオンはすぐに真顔に戻った。
「急ぎましょう。アメリさんが危険です」
彼女は懐から水晶玉を取り出し、手をかざした。淡い光が灯り、その中に揺らめく映像が浮かび上がる。
ワタナベだ。街道を進んでいる。ワタナベがまたがる馬の横を、手枷を嵌められたアメリが歩かされていた。場所には見覚えがある。
「まだ近い……!」
「ええ。村を出たばかりです。今から行けば追いつけます」
俺は剣を握り直した。
胸の奥で怒りが燃える。今なら行ける。今の俺ならあいつに届く。
「行きましょう、聖女様」
「……シオンで良いです」
俺たちは村を飛び出した。アメリを取り戻すために。勇者ワタナベを地獄へ引きずり落とすために。
「面白かった!」
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