番外編 ドットモード
いつものようにログインした僕の目の前に、お知らせパネルが現れた。
【本日限定イベント ドットモードで遊べます】
「ドットモード?」
僕は首を傾げながら、お知らせパネルをスクロールした。
「なになに? ……昔のRPG風の世界を、最新のVRで再現。街もモンスターも、ぜんぶブロックみたいなドットで構成されています。へぇ……マ⚪︎クラみたいな感じなのかな?」
僕は、お知らせを読み上げながら、有名な『マ⚪︎ンクラフト』を思い出していた。
「ドットモードで遊ぶ場合は、こちらから切り替えができます……か。今日だけって言われちゃうと、試したくなっちゃうよね」
僕は、最新のアクションなど、動きのあるゲームがあまり得意ではない。それよりも、サブスクで遊べるレトロゲームが好きなんだ。特にコマンド式RPGが好きでよく遊んでいる。
「フ⚪︎ミコン時代のようなゲーム画面なのかな」
僕は、ワクワクしながらパネルの【ドットモードはこちら】という文字に触れた。
その瞬間、辺りが真っ白になったかと思えば、一気にブロックの積み上がった景色に切り替わっていた。
「うわ、本当にドットっぽい!」
僕は姿勢を変えながら、辺りを見回した。
マ⚪︎クラよりももう少し小さめのブロックでできた景色は、レトロRPGの雰囲気をうまく表現していた。
さっきまで感じていた風や匂いは一切しなくなり、窓も何もない部屋の中にいるみたいな感じだ。
けれどその代わりに耳に届いたのは、ピコピコというレトロゲームらしい音楽。
風やにおいなどのリアルさがなくなった代わりに、ゲームらしいBGMが流れているようだ。
試しに僕は、グリーンヒルの入り口にいる門番に声をかけてみることにした。
目の前に、コマンドのパネルがスッと現れた。文字がカクカクしていて、これこれ! と僕はテンションが上がった。
【コマンド】
▶︎はなす じゅもん
つよさ どうぐ
そうび しらべる
僕が【はなす】を選択すると、ピピッと音が鳴り、会話パネルが現れた。
『ようこそ グリーンヒルへ』
ピコピコ音と共に文字が表示されていく。
すごい、会話も全部このパネルに表示されるってことなんだね。
僕はもう一度話しかけたみた。
『ようこそ グリーンヒルへ』
わ、同じことしか言わない!
僕は楽しくなって、その後三回も話しかけてしまった。
そのあとグリーンヒルの中を歩いてみてわかったことは、サポートキャラの呼び出しはできないし、街の中にはAI搭載のNPCではなく、昔のゲームのように同じ言葉や同じ行動を繰り返すキャラが配置されていた。
レトロゲーム風なんだから仕方がないけど、いつもAI搭載で人間のようなやり取りをできる街の人と話しているせいか、会話が成り立たないキャラクターとの会話は、だんだん寂しく感じられるようになっていた。
「よし、この街で一番強い武器防具を買ったし、やくそうも買ったし、街の外に出てみよう!」
いつものリベラリアならレベル設定はなかったけど、さっきパネルを確認したらレベルが表示されていた。ということは、レベル上げもできるはずだ。
街の外に出ると、少し先に水色の雫型のモンスターを確認した。
「スライムだ!」
最初の町周辺の定番モンスターといえば、やっぱりスライムだよね。ベアウルフが出るなんておかしいんだ。
僕はリベラリアに初めてログインした時のことを思い出し、肩をすくめた。
僕がスライムに近づくと、音楽が鳴って画面が切り替わった。スライムと向き合う形になり、コマンドパネルが現れた。戦闘モードだ。
【シロ】
▶︎たたかう
じゅもん
にげる
どうぐ
僕が迷いなく【たたかう】を選ぶと、目の前のスライムに向かって一筋の閃光が走り、二回目にたたかうを選んだ後、目の前のスライムが画面から消えた。
~♫
そして、ピコピコ音で音楽が流れると、目の前のパネルは、レベルアップの通知画面に切り替わった。
「やった! レベルが上がった!」
僕は手にしていた『どうのつるぎ』を空高く高く掲げると、ガッツポーズをした。
けど、コマンド選択なので、僕自身が切りつけた感触は全くないので不思議だ。
しばらく戦闘を繰り返していてレベルも上がったけど、そろそろ飽きてきたので街に戻ることにした。
誰に話しかけても、毎回同じ反応をするので、だんだん話しかけることをしなくなってしまった。
最初は楽しかったけど、やっぱり一人は寂しいな。
僕はパネルを出し、通常モードへ切り替えた。
目の前が一度真っ白になり、その直後、一気に街の賑やかな声や音が耳に入り、いろいろな匂いも鼻をかすめた。
「戻ってきたー!」
僕は嬉しくなって、つい大きな声を上げてしまった。
「なんだ、シロ。ドットモードで遊んでたのか」
振り返ると、いつも僕が一緒に冒険をしている、大切な仲間が立っていた。
「ラパン!」
僕はラパンの名を呼ぶと、大きな胸に飛び込んだ。
ドットモードでは、仲間はいないし、NPCは同じことの繰り返しだし、楽しくても孤独感が勝ってしまったんだ。
だから、大切な仲間であり、僕の大好きなラパンがそこに立っているだけで、僕の心は一気に高揚していく。
「今日限定だっていうし、レトロゲームが好きだから、体験してみたくて!」
「どうだった?」
「すごい再現されていたよ。レベル上げもできたんだ」
「そうか、楽しかったようでよかった」
「うん!」
元気に答えたあと、「でも……」と言いかけて、小さく首を振った。
ドットモードも、リアルモードも、それぞれ楽しかったんだ。
ちょっとだけつまらなくなってしまったなんて話、パランにしなくてもいいよね。
でも、これだけは伝えたい。そう思って、僕はラパンに甘えるように言った。
「すごく楽しかったけど、やっぱり僕はラパンと一緒がいいな!」
「俺もだ」
顔を上げると、嬉しそうなラパンの笑顔があった。
僕はこの後サポートキャラのユキを呼び出し、二人と一匹でいつものようにVRゲームの世界を堪能した。
今度は、仲間と一緒にドットモードを体験してみたいな。
そう思いながら、その日はずっと、ドットモードの世界の話をラパンに聞いてもらっていた。
終




