第二十六話
カテリーナ様を訪問する日──
コンコン、と扉をノックすると、はい、と中から返事が聞こえた。
「失礼します」
扉を開け中に入ると、ベットの縁に可愛らしい女の子が腰掛けていた。こちらに視線を向け、ぼーっとしたように見つめてきた。
「初めまして、カテリーナ様。リラ・クラークでございます」
挨拶をすると、はっとしたように女の子が立ち上がった。
「初めまして、リラ様。カテリーナ・ジェラルドです」
髪は肩ぐらいのところで切りそろえられており、軽くウェーブがかっている。窓から入る光で赤い髪が反射していた。瞳は薄い緑で、こちらもカテリーナ様の可愛らしさを引き立てていた。
「今日は急にごめんなさい。リラ様とお話してみたくて、お兄様に頼んだんです」
「えぇ、ヘンリーから聞きました」
(何を話せばいいのかしら...)
小さな頃から森にある城に住んでいたため、あまり交友関係を持ったことがない。ましては、メイ以外の自分より小さな女の子と喋るなんて、初めてのことだった。
なんとなく気まづさを感じていると、カテリーナ様がこちらをチラチラと見ていることに気がついた。
「何かありましたか?」
「え、えっと、その...」
にっこりと微笑みかけると、くりくりとした薄い緑の瞳がキラキラと輝いた。
「リラ様!こっちです!」
カテリーナ様から手を引かれ、連れてこられたのは温室だった。
(温室の存在は知っていたけど...来るのは初めてだわ)
最初、カテリーナ様から「一緒に温室に行きませんか!?」と誘われたときには疑問に思ったが、温室にきたカテリーナ様は花をみると、嬉しそうに目を輝かせた。
「花がお好きなんですか?」
「はい...!私、小さなころから外で遊ぶことができなくて...でも、ここの温室だけはよく許可をもらって遊びに来ていたんです」
そういう彼女はとても愛らしく、花の妖精のようだった。
「あの、リラ様...お願いがあるんです」
「お願い...ですか?」
(一体どんなお願いかしら...)
私が叶えてあげられることは少ないが、どんなことでもできる限り叶えてあげよう...そう思っていた私は、カテリーナ様のお願いに拍子抜けしてしまった。
「リラ様のこと...リラお姉様って呼んでもいいですか?」
「...え?」
(ぜんっぜん予想していなかった...!!)
「えぇ。構いませんよ」
困惑しながらも了承すると、カテリーナ様は嬉しそうに笑った。
「あ、あと、敬語もやめてください!私のことも、カテリーナと、呼んで下さると嬉しいです...」
うるうると上目遣いで言ってくるカテリーナ様のお願いが、聞けないわけがなかった。
(可愛い...!可愛すぎる...!)
「わ、わかったわ...カテリーナ」
そう呼んであげると、カテリーナはぱぁあ!と表情が明るくなり、「はいっ!」と元気よく返事をした。
(こんなに可愛い生き物が存在するのね...)
この日は一日、カテリーナと温室で遊んだり、カテリーナの部屋でお喋りをして過ごした。カテリーナはずっと本に出てくるような姉妹に憧れており、私にとても懐いてくれた。帰り際に、
「また会いに来てくださいますか...?」
と寂しそうに聞かれたときには、可愛さのあまり固まってしまった。
「もちろん。また遊びましょう」
そう言って手を振ると、嬉しそうに手を振り返し、私の姿が見えなくなるまで見送ってくれた。




