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俺に促され、イリスは辺りを見渡した。
「そうね…あぁ、そうだ。ここで出会ったんだ…君と…」
どこか現実感がない様子でイリスは呟いた。
「でも、どうしてここに?デートプランに入っていたの?」
「いや、通りがかかったから懐かしくなって」
俺なりに6年前を再現したかった。初めてイリスと出会い、初めてイリスの心に触れた場所。1ヶ月の記憶はなくとも、あの時の記憶はまだ覚えている。ここならもっとうまくイリスと向き合える気がした。
「せっかくだし、回ってみようよ。6年前みたいにさ」
にわかにイリスの表情がぎこちなくなった気がしたが、イリスは笑顔で頷いた。
6年前をなぞり、まずは釣り堀へ。
料金は前より高くかかった。まぁ小学生から高校生になったのだから仕方ない。ただ、前より俺は金銭的余裕がある(親からのもらっているものだけど)。今回は2時間取ってみた。昼食は池袋で食べてきたし、のんびりするにはちょうどいい時間帯だ。
「日焼けしちゃいそう」
「あ…確かに…ごめん」
「まぁいいわ。日傘あるし」
確かに昼下がりから釣り堀なんて、この夏場に女の子と一緒にやるイベントじゃない。
適当に席を選んで腰を下ろした俺達は、エサをつけて釣り針を池に投げた。後は竿を握って待つだけだ。
席の位置は前と違うけど、この感覚、佇まいは懐かしい。
そうだ。イリスが隣にいて、魚が食いつくのをのんびり待って、他愛のない話をして。
「どう、イリス?あの時みたいだろ?」
「そうね…」
浮きを注意深くみていたイリスの返答は気が抜けていた。日傘をさして釣りをしているのは彼女だけだが、目つきは真剣だ。
「ここはどんな魚がいたっけ?」
「あぁ、鯉とか…だったかな」
「OK。鯉だったら余裕そうね。次こそ釣り上げてやる」
思ったよりイリスは真剣に向き合っていた。浮きの動きに逐一目を配っている。
「あれから釣りをやったりしたの?」
「付き合いでたまにやったくらいだわ。もっとも、相手は海の魚だったけど。それと比べたらここは余裕ね。池の中で飼いならされている鯉なんて野生と比べたら簡単」
「なんかすごいプロっぽくなっている…」