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「経験を積んだのよ。前みたいに失敗したら、変な感じになっちゃうでしょう?」
得意げにイリスは言って、釣り竿を上げた。
エサが取れていたことにイリスは小声で文句を言って、またエサをつけなおす。
思ったより真面目に鯉を釣る雰囲気になってきた。俺もイリスにならって釣り竿に注意を向ける。
なんか前と違うな…と違和感を覚えつつ、俺達は釣りに勤しんだ。まぁ釣り堀に来ている以上これが正しい姿だ。6年前みたいに釣り竿が池に落ちてはしゃいでいることを期待する方がおかしい。
「こいつら野生と違って人間様のお世話になっているくせにどうして食いついてこないのかしら。恩を仇で返すなんて、とんだ恩知らずね」
「鯉に当たるなよ、イリス」
「和嵩も!再チャレンジするつもりだったらちゃんと練習したのよね?上達もしていないのにリベンジしてもまた負けるだけよ」
「うっ…」
特訓なんてしていない。たまに思い出したようにこの釣り堀には来ていたけど結果はまちまちだ。一匹も釣れていない時もある。どうやら俺に釣りの才能はないらしい。
「ま、まぁイリス、気楽に行こうよ」
言い訳じゃないけど、俺は別に本気で釣りをしにきたわけじゃない。思ったよりイリスに火が点いてしまったことに俺はちょっと戸惑いを覚えていた。イリスがここまで負けん気が強いとは。前に一匹も釣れなかったことを気にしていたのだろうか。
「イリスはいつ釣りをしていたの?まぁアメリカにも釣り堀はあるだろうけど…」
「セントラルパークでもできるよ。あそこは無料で竿貸してくれるけどね。まぁ風景はここと全然違うし、使ったことはないけど」
「えっ、セントラルパークに釣り堀あったのか?」
「覚えていないのね。まぁ仕方ないけど…。それに和嵩がアメリカにいた時はやらなかったし」
「そうなんだ…」
もし知っていたら行ったのになぁ。釣りが特別好きなわけじゃないけど、イリスとなら行ってみたい。惜しいことをした。
「行っとけばよかったなぁ。忘れている俺が言うのも難だけど」
「釣りなんてたまにレジャーでやるようなものよ。特別好きになるのは釣りを趣味にできる人だけだし、そんな頻繁にやらなければならないことじゃないし」
「…釣りしない方がよかった?」
「そういう意味じゃない。アメリカでも日本でもできることだってかまわない君とやることならなんでもいいし、絶対楽しいからいい。」
イリスがちょっとふてくされたように答えた。
「やるなら真面目にやろうって思っただけだよ」
「…そうだね。それもそうだ」
俺は釣り竿を引き上げた。多分落ちたのだろう、エサは無くなっていた。
「あっ!来たっ!」
イリスが声を上げて立ち上がった。釣り竿がしなっている。俺は思わず自分の竿を手放して、イリスを支えた。
「和嵩?」
「大丈夫?!」
「別に平気だって!だから自分の竿持って!」
おっと。6年前と同じ失敗をするところだった。学習能力のない自分が気恥ずかしくなる。
俺が自分の釣り竿を手に取ったのと同じタイミングでイリスは鯉を釣り上げた。ビチビチと跳ねる鯉を持ち上げて、イリスは自慢げに笑う。
「挽回した!どう?それなりの大物じゃない?」
「うん、すごい」
「次は和嵩だよ?また私を助けようとしたらダメだからね。変なことしたらダメだよ。たかが釣り堀で釣り竿を放り捨てるなんて初めて見た」
「俺も釣られちゃったよ。でもまずは自分からだよな」
イリスが6年前の挽回をしたんだから、次は俺だ。ちゃんと釣らなきゃ。
でもイリスが釣り上げた時の笑顔は…かわいかった。
「頑張って、和嵩」
イリスは再びエサをつけた浮きを池に放った。
結果として俺は3匹、イリスは7匹の鯉を釣り上げた。6年前と比べると見違えるような成果だ。イリスはホクホク顔だった。彼女が満足そうなのはうれしいけど、負けたら負けたらで少し悔しい。6年前とは全然違う雰囲気になったが、楽しんでもらえたならそれでいい。
釣り堀から出たら、次はファストフードの店へ。こちらも6年前よりお金があるからある程度の贅沢ができる。今回はLサイズのドリンクにLサイズのフライドポテトとナゲット2箱。6年前の当てつけのように豪勢にしてみた。
釣りの余韻が残っているイリスはまだご機嫌だった。水族館で見せたあの陰のある表情はすでになく、いつもの陽気で無邪気な表情に戻っていた。




