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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
2人の日常02
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2人の日常10

隣でレイスが起き上がる気配を感じ、目を覚ました。


ぼんやりと眺める視線の先。

彼女はゆっくりと体を起こし掌を口に当て、見た事もないような欠伸をしている。

そして、声ともため息ともつかない息を吐きながら右手を上に伸ばす。

肩口で切断された細い左腕がそれに伴うようにゆっくりと動く。


ひとしきりの間延びした動作の後、再び欠伸をしながらゆっくりと振り返る彼女と目が合った。

口を半開きにしたままで動きが止まり、その目がゆっくりと見開かれる。

「起きていたんですか?」

「いや、いま起きた」

「私、何か変な事していませんでしたか?」

「いや。……顎、外れるぞ?」

「しっかり見てるじゃないですか……」

少し困ったような顔をする彼女を眺めながら起き上がった。


「まだ朝食、間に合うと思うか?」





何とかルシアの機嫌を損ねない時間に朝食を要求することに成功し、いつものように彼女の方へ皿を押しやる。

やはりいつものように軽く礼を言いながら食事を始めるのを眺め、自分の皿に手を付けた。


「どこか行きたい所とかないか?俺は小手の修理ができるか聞きに行く程度だな」

「ミリアとグラニスさんの所に行きませんか?きっと心配してますよ?」

「あぁ……」

正直、前者については気乗りしなかった。

心配されているだろうし、彼女があの凄惨な場面で心情的に不安定になってないかという心配もある。

しかし、また別の心配が大きかった。


耳元の浅い息遣い。

柔らかな感触。

……明らかな好意。

別れ際のミリアの嬉しそうな笑顔を思い出し、目の前の彼女から一度視線を逸らす。


「どうしたんですか?」

怪訝そうな顔をする彼女に曖昧に笑って答え、再び目の前の皿にフォークを突き立てた。


「じゃあ、俺は自分の用事済ませてからグラニスさんの所に寄って、それから迎えにいくよ」

「えぇ…。私よりもリューン様の心配をしていると思いますよ?」

何ともいえない表情でそんな事をいう彼女から再び視線を外した。


「そんな事ないって。それにそんなに時間はかからない。近くまでは一緒に行くから大丈夫だ」

的外れな返事をしながら、最後の肉を口に放り込んだ。

恐らく意図を理解しているであろう彼女はそれに軽く頷きながら、未だ皿の上に残る料理を片づけ始める。


「あぁ、急がなくていいって……」

懸命に口を動かす彼女を、苦笑いしながら眺めていた。






ゆっくりと養成所の前の通りを歩いていく。

少し遠回りではあるのだが、丁度ここへ出向いたグラニスと行き違いになるのも避けたかった為だったのだが。


「あれ……。えっ!?」

その声に振り向くと、そこには驚いたような顔のセイムが立っていた。


「よう、久しぶりだな」

「久しぶりも何も。いつ戻ったんだよ先生」

「昨日だ。さすがに疲れた」

「……いつも疲れたって言ってるよね」


「悪かったな。俺はもう少しゆっくり生きたい」

「そういう風には見えないけど。姉貴の所には?心配してたぞ?」

その言葉に、隣のレイスが、ほら、とでも言いたそうな顔をしている。


「これからレイスが行くから大丈夫だ。後で俺も顔を出す。所でグラニスさん見かけなかったか?」

「グラニスさん?いや今日は見てないね」

「わかった、じゃあ家に行ってみるか。ありがとうな」

「ああ、ちょっと先生、相談があるんだけど」


「後でじゃ駄目か?」

「すぐ済むんだけど……」

セイムの視線が、少し何か言いづらそうにレイスを見ている。

その視線に気づいた彼女が軽く微笑みながら口を開いた。


「リューン様、私、先に行きます。大丈夫ですよ?お話を聞いてあげて下さい」

「あぁ……わかった。じゃあ宜しく伝えてくれ。後でな」

「自分で言えばいいじゃないですか……」

少し呆れたような顔をこちらに見せ、レイスはリンダウ家に向かった。

その背中が小さくなった頃。


「先生、ちょっといい?」

「一体なんだよ。金ならない……でもないか」

「何言ってるんだよ。お金の話じゃないって」

「じゃあ女か?聞かれても俺は気の利いた答えは出せないぞ」

「あのさぁ……」

先日の折と同じような話の流れに、セイムがうんざりするような顔をしていた。

それを見て再びの反省と、いつもこうやってはぐらかす会いたくもない相手にも礼を言いに行かねばならない事に思い当たる。


「いや、悪かった。ミリアの話か?ちゃんと礼は言われたかよ?」

「言われたけど。そんな事どうでもいいよ」

「どうでもよくないだろ。で?」

「なんだか話すのが馬鹿らしくなるよ……」

一度視線をあさっての方向に泳がせたセイムが再び口を開く。


「あのさぁ、この間の続きだけど。姉貴、駄目か?」

「……。」

「別に駄目じゃないけど、とか言うんだろうけど。姉貴、戻ってきた後もう全然だめだぞ」

「駄目?調子悪いのか? 危ない思いさせたからな……」

先程の懸念が当たっていたのだろうか。


「違うよ。すんごい機嫌いい。気持ち悪い。本当に」

「……。」

「……。」

「……そうか。よかったな」

その的外れな答えにセイムが顔を歪ませる。


「先生ってさぁ……」

その続きを彼が口走る前に、目の前に右手を広げた。

セイムは途中で言葉を塞がれ、更に顔を歪ませているが。


「もう行く。言いたい事は大体わかった」

「大体って……」

「じゃあな」

「あ、ちょっと。……分かったよ。でもあんまり泣かさないでやってくれよな」

少し意外な言葉に驚きを感じつつも、彼の言葉に何を答えるでもなく。

俺はその場を後にした。






道としてはレイスの後を追うようになるが。

俺はグラニスの家を訪れた。


大きな家に派手なノックの音が響く。

暫くの後に顔を出した中年女性が俺の顔を見るなり、少しお待ち下さいと丁寧に言い残し再び扉が閉まる。

使用人ともすっかり顔見知りになってしまった。


思えばレイスと出会う前は人との繋がりもどこか希薄で、そこに意味など見出せなかったように感じる。

それが今では皆、かけがえのないものに思えていた。

実際に変わったのか、それとも心の持ちようなのか。

何れにせよ。

自分の事ながら変わるものだな、などと思わず薄笑いを浮かべていた。


暫くの後の後、再び開く扉から顔を出したグラニス。

「リューン、久しぶりだな……何か可笑しいのか?どうした?」

「いや、なんでもありません。お話は聞かれましたか?」

「昨晩スライが来て大体の所は聞いた。まぁ立ち話もなんだ、たまには上がっていけ」

今回は素直に上がり込み、高価そうなテーブルに着く。

先程の使用人が温かい飲み物をそこへ並べてくれるのに、軽く頭を下げた。


「毎度毎度、本国の連中には失望する。ミネルヴは何をしていた。すぐに告知して動いていればもっと犠牲も少なかっただろうに」

「納得できる話ではありませんが……その犠牲よりも別の目的の方が大事だったんでしょう。隣国との事で何か聞きましたか?」

「いや、スライからは特に聞いていない。本国経由の情報も暫くかかるだろう」

「そうですか。実は――」

ミネルヴがマルト王国の騎士グレトナに渡した、当人曰く和平に係わる書簡。

そして話の端々に出てきていた南の方、という言葉。


不死者の件については、その犠牲について仕方がなかったなどとは思わない。

政治的な理由で街一つ見殺しにされるなど冗談ではないと思うが、その一方でそれは、別の何かが動いていると考えるに十分過ぎる理由でもあった。

そしてグレトナの、あまり首を突っ込むな、という言葉。


「グラニスさん。別にそれに係わりたいとは思いませんが。別の何か面倒な話が動いているのかもしれませんね」

「そうかもしれないな。少し私も伝手を当たってみよう。何かわかったら知らせるか?」

「いや……色々と首を突っ込むなと釘を刺されたばかりでして。でも、何かグラニスさんを手伝える事があれば聞きます」

「わかった。すまないな。お前には借りができるばかりだ」

「何を言ってるんですか。レイスはそれ以上に世話になっていると思います。気にしないで下さい」

その言葉にやれやれとでも言いたげな顔で頷くグラニス。


その後、馬を借りた件への礼や、ミリアを何とか救出できた事などを改めて説明した。

ついでに見慣れた金髪と、余計な一言を口走る若い騎士への賛辞を一通り述べてグラニスの家を後にした。






大きな家が立ち並ぶ区画を出て、町の中心部の人ごみを通り抜ける。

定宿の近くにある馴染みの武具屋に着いたのは、昼を回った頃だった。


見慣れた狭い店内。

所狭しと壁一面に並ぶ武器を眺めながら、見通しのきかない店の奥へと進む。

その足音に、カウンターに座っていたやたらと体格のいい男がゆっくりと顔を上げた。


「あれ、戻ったのかい?この間の修理した剣、どうだった?」

「マスター、悪い。折角組んで貰ったんだけど……雑に使い過ぎたな」

先日、右肩の後ろにぶら下げていた雑な刀身を引き抜いて見せる。

刀身以外にはまるで問題がないのだが。


「あー、こりゃもう流石に限界だな。気に入ってたんだろ?ナイフにでも詰めるかい?」

「いや、もう元は十分取ってるからそろそろ休ませてやってもいいと思ってる。それよりもこっちだな……」

ずた袋から使い慣れた小手を引きずり出し、カウンターにそっと置く。


派手に潰れた左の拳。

特に中指のあたりは指周りが何も無くなっている。


店主はカウンターに鎮座するそれを見て、大きく首を左右に振って見せる。

「リューン、最近戻ったならまだ聞いていないかもしれないが、この手のは王都かウルム送りなんだ。王都は値段が倍以上違うんで普通はウルムなんだが、そのウルムが――」

「歩き回る死体だろ?そこ行ってたんだよ。大変だった」

「ちょ、本当かよ!その話、出回ったのつい最近で。受けちまったけど直せない物が出て困ってるんだ。そんな事より――」

目を輝かせてウルムでの事を聞き出そうとする店主に、さんざ切り倒してきた不死者についての情報を話す。

しかし告知が遅かった体制への反発を煽るような事は避け、どちらかと言うと自分が死にかけて大変だった事などを笑い話のように説明した。


「どういう経緯か知らないが、あんたランク4だっけ?そんなとこ連れて行かれてよく生きて帰ってこられたね」

「ランクはまだ3のままだな。……しぶといって言われたよ」

「本当しぶといよ。褒めてるんだぜ? いずれにせよ生きててよかったな。そんな所で最後に使って貰えたんだ。こいつも本望だろうさ」

店主が、先程の刃こぼれ著しい刀身に視線を落とす。


「マスター。やっぱりこれ、無理か?」

「ああ悪いな、話を戻そう。いずれにせよ、魔力云々はパドルアでは難しい。出来る奴を探してみるが、とりあえず形だけ直すなら話は早い。その後で様子を見て王都送りって所だ。向こうも仕事が増えていつ上がってくるかもわからなくなると思う。……それでいいか?」





結局。

とりあえずの修理を依頼して店を出た所で、ふと気が付く。


もう、必要ないのではないだろうか。

生きていくだけならば、そう不自由しないだろう。

別に隠居老人のように過ごそう、などとも考えてはいないが……。

しかし俺は。

あれで、自らの命を奪おうとする刃を受け流すような場面に、これからも出張るのだろうか。


立ち止まって少し考えこむ。

しかし。店に戻る事はせず、再び歩き出した。



何となくリンダウ家へ向かわない理由を付け、その足は再び中心部の近くを通り抜ける。

途中露店で簡単な物を腹に入れながら、俺はアレンの所へ出向いていた。


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