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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
2人の日常02
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2人の日常09

見慣れたパドルアの門をくぐったのは、ウルムを出てから5日後の事だった。


馬の体力の限界まで急ぐ必要などなかったこと、寄り道がなかったこと、見慣れつつある不死者と出会う事もなかったこと。

全てがここを発った時とは真逆だった。



「それじゃね。私達は戻るから。恩は……返せた?」

ひらひらと手を振るヒルダに、微笑みながら頷いて見せる。

正直、十分過ぎるくらいだ。

逆に彼女たちの窮状を知った場合、放っておく訳にはいかなくなったと思っている。


そしてその隣。

ライネに、腕の中のレイスが悲しそうに微笑む。

それに答えるように目を伏せて頷くライネ。


急激に重くなるその空気に、スライが割って入る。

「ヒルダ、ライネ、それじゃあな。落ち着いたらみんなで飲みにでも行こうぜ」

「そうだね。リューンの所を荒らしに行こう」

無理に明るい声を出すようなそのやり取りに、2人の表情も幾らか明るくなった。


「じゃあリューン、俺達も行こうぜ。あぁ馬はグラニスさんの所に返すのか、めんどくせぇ」

白々しく大きな声を出すスライに心の中で感謝しつつ、ここで別れる2人の馬をひきながらグラニスの家に向かった。



当人が留守のグラニスの家で使用人に馬を預け、後日改めて訪れる事、そして礼の伝言を頼んだ。

大きく欠伸をするスライが向き直る。

「じゃ、またな。落ち着いたら呼べよな?」

「わかった。一番最後にな」

「……本当ひでえよな、お前」

「冗談だ。最初に呼ぶ」

その言葉に目を見開くスライ。


「気持ち悪ぃな。一体なんだ?」

「嫌なら来るなよ。とにかく落ち着いたら呼ぶからよろしくな?」

「分かったって。調子狂うっつの」

「知るかよ……」

互いに苦笑いを浮かべる。

隣で聞いていたレイスも薄笑いでこちらを見上げていた。


「またな」

「ああ、またな」

軽く手を上げ、スライとも別れた。






「さて。帰ってきたな」

やはり少しぎこちない顔で微笑む彼女の髪に触れる。


「レイス、ちょっと寄り道してもいいか?」

「寄り道ですか?構いませんけど……どこにですか?」

「家。多分この近くだ」

「ああ……」

少し気乗りしない風の彼女の手を引き、グラニスの家から2区画ほど先にある筈の報酬を眺めに向かった。





暫く歩いた先。

じきに俺たちが住まう筈の家を見つけた。

というよりも。見つけてしまった。

「……リューン様」

「帰るか」

「そうですね」


俺達の視線の先に表れたのは、今まさに改修作業が行われている家の筈だった。

しかしそこには見事なまでに半壊した家屋が、やっと立っていた。

改修と言うよりは取り壊し作業の風景だ。

元より気乗りしない風だったレイスが明らかに顔を歪めている。

そこへ連れてきてしまった俺は、それに輪をかけて顔を歪めていた。


「あれ、全部壊した方が早いだろ。壁と屋根さえあればいいと思ってたけど流石に……」

俺の脱力したような声に、レイスがくすくすと笑いながらこちらを見上げる。


「住めるようになるのは当分先になりそうですね」

「あぁ。まだ当分、ルシアさんに世話になるようだな」

「でも、ルシアさんもその方が喜びますよ。それに……」

「それに?」

顔を覗き込む俺から視線を逸らし、彼女が薄く微笑む。


「何でもありません。リューン様。帰りましょう」

ゆっくりとのばされた彼女の右手が、俺の左手をそっと掴む。

「ああそうだな。……帰ろう」






久し振りの階段を上り、見慣れた扉を開く。

ほっとした顔のレイスが鞄も下ろさずにベッドに座り込んだ。

そこからこちらを見上げる光景に、思わず笑みを浮かべていた。


「レイス、お帰り」

「あ、そうですね。リューン様、お帰りなさい」

「やっぱりここがいいよな」

「寄り道、しなければよかったですね」

「……悪かった」

「や、え、別にそういうつもりじゃないです」

少し困ったような顔をする彼女を眺めながら荷物を下ろした。


久々に開かれた窓の外からはまだ人通りの喧騒が響いている。

太陽は少し傾き、もう夕方になろうとしていた。



「じゃ、行くか」

「はい」

仕事を終えた日の日課となりつつある行動。

浴場へ向かい体を流す。

遅れて出てきた彼女と一緒に部屋に戻り、椅子に座らせた彼女の髪を良く拭く。

それにいつものように礼を言う彼女と食堂に降りた。


今回は少し長めに開けたが、いつも通りの行動だった。

やはりいつも通りに、切り分けた食事を彼女の方へ押しやる。

少し嬉しそうにフォークを受け取る彼女を眺めながら、俺も目の前の少し硬い肉にフォークを突き立てた。


夕食にしては少し早めにテーブルに着いた俺達の横に、少しほっとしたような顔をしたルシアが現れた。

まだ時間も早く、話す余裕もあるのだろう。


「帰ってこなかったらどうしようかと思ったよ。長く出掛ける時はちゃんと言っていくんだよ、もう」

それはとても温かい言葉だが、その全てをレイスの方に向かって言うのはどうかと思う。

不満げな顔の俺を無視して、厨房に戻るルシア。そしてその不満顔を見て楽しそうに笑う彼女。


先に食事を終え、ゆっくりと食事を口に運ぶ彼女を眺めていた。

「リューン様、見てますよ」

「見てる?何が?」

「食事中に見られていると食べづらいって言ってたじゃないですか」

「あぁ、確かに言っていた。……駄目か?」

「別にいいですけど」

困ったようにこちらから視線を逸らし食事を続ける彼女を、少し悪いとは思いながらもそのまま眺めていた。




部屋に戻り、レイスは再びベッドに座る。

俺も定位置の椅子に座り、大きく伸びをした。

それなりに休んでいたつもりだったが、さすがに疲れていた。


「レイス、どうだ?」

「もう少し……」

「わかった。どの道、話し込むなら昼間がいいと思っていた。夜はどうも感情的になりやすい」

椅子から立ち上がり、浮かない表情の彼女の肩に手をかける。


「大丈夫だ。お前の言う事なら大体は叶える。もう少し我が儘言ってもいいんだ。……でも俺にできる事にしてくれよな?」

返事もせず、座ったまま更に俯く彼女の細い肩を抱き寄せる。

少しためらうように腰に回される彼女の右腕。


部屋の中には、今だ続く表の通りの喧騒だけが流れていた。


どれだけの時間が経ったか。

「……寝るか」

その言葉にゆっくりと顔を上げた彼女が、微笑む。


再び閉じられる窓。

いつものように蝋燭を2人で吹き消して回り、狭いベッドに潜り込んだ。





狭い部屋に小さく響く彼女の細い声。

微笑みながらその右腕を広げる彼女。


屋根と壁だけあればいい、というか。

多分、この部屋があればそれでいいのだと思う。


ただ、そんな事を考えていた。


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