#6 ナイトメア
「ねえ、流くん」
ここは病院の一室。
一ノ瀬夕姫の病室だ。
僕は日課のお見舞いに来ていた。
「ん?夕姉?」
「小さい頃、私と結婚するとか流ちゃん言ってたでしょ?」
「・・・覚えてないよ、そんな昔の事。」
嘘だった。ちゃんと覚えている。
恥ずかしくて言えなかった。
「じゃあ、私が居なくなっても大丈夫よね?」
「夕姉、居なくなるって・・・何を・・・」
「いや、もしもよ。もしも。
私が居なくなちゃっても流くんちゃんとやっていけるかなーって心配になっちゃって。」
「・・・・・・」
夕姉は終始笑顔だ。
でも悲しそうな目をしている。僕には分かる。
そんな目をしていたら、何も返事を返せるわけがないじゃないか。
―地下9階 12/22 午後0時 残り67時間―
「・・・うくん・・・ょうぶ?」
何か声がする。
「ね・・・りゅうくんっ・・・ば!」
見知った声だ。
「りゅうくん起きて!」
「ああ、おはよう夕姉・・・ん?」
目を開けたら、すぐ近くに心配そうにしている夕姫の顔があった。
そうだった。ここは自分の家じゃない。狂ったゲーム会場だ。
起き上がって、辺りを見渡すと見覚えのない部屋だった。
小さな個室で壁は相変わらずの白。
しかし、ベッドが2つ置いてあり、棚には薬や治療機器が置いてある。
医務室なのだろうか。
「りゅうくん大丈夫?」
「ああ、うん。大丈夫。ここは?」
「りゅうくんが私達を庇って気絶しちゃったから、とりあえず場所を離れて近くにある部屋に運び込んだの。」
ああ、あれで気絶してしまったのか。
我ながらひ弱な身体だと呆れてしまう。
「もう、無茶するんだから。初めはりゅうくんが死んじゃったんじゃないかって思って・・・」
夕姫が泣きそうにながら話す。
その顔はやめて欲しい。心が抉られる。
「そういえば深夏は?」
「ん?深夏ちゃん?この部屋の隣にまた物置みたいな部屋があるから、そこを見てもらってるよ~。」
物置か。また拳銃みたいな物騒な物が出てくるに違いない。
僕はベッドに座り込み、夕姫も隣に座る。
「逃げたあの男はどうなったの?」
「逃げてそのままだよ。人殺しにも躊躇しないみたいだし、もう会いたくないなぁ。」
夕姫は嫌そうに口を尖らせる。
まぁ無理もない。僕も2度と会いたくないタイプの人だ。
「でも、また来るだろうなぁ。次はボウガンじゃなく、もっと強力な武器か能力を手に入れて。たぶんそんな気がする。」
ああいうタイプは、漫画とかでもすぐには死なない。
しつこく粘着してきて、主人公達に襲いかかってくる。
「とりあえず、地下8階へ急ごう。もうボスも倒されてるかもしれないし。」
「うん。でも、ちょっとここで休んでいきましょ。りゅうくんに拒否権ないからね。」
「はいはい。」
―――――――――――――――
程なくして、深夏がお菓子や飲み物を持って部屋に帰ってくる。
部屋に冷蔵庫があり、そこに入れてあったらしい。
僕達は簡素な昼食を摂り、一時間ほど休んでから出発した。
ボスが居ると思われる、階段がある大部屋までは1時間ほど掛かった。
そこまでに警備ロボットに2回ほど出くわしたが、夕姫の電撃で撃退。
そして今、大部屋の扉の前。
「・・・誰も居ないみたいだね」
深夏が呟く。
不気味なほどの静けさ。それを3人は感じていた。
「とりあえず中に入ってみましょう。」
夕姫が両手で扉を開け、3人で中に入る。
大部屋は4つの鉄柱に区切られ、奥に階段らしきものが見える。
それ以外は異様に殺風景だった。
しかし、部屋の中央に違和感がする。
一人、男性が立っていた。
服装がスーツだったので、またあいつかと一瞬思ったが、全く違った。
後ろ向きで顔が分からない。髪は銀色で、シルクハットを被っている。
「ねえ、そこの人。あなたもプレイヤーなの?」
夕姫が問いかける。
男性はその声を聞いて、振り返る。
しかし、僕達はその正面の顔を見て驚愕する。
人間ではない、狼だ。
明らかに人間の頭ではない。狼の頭だ。
口から鋭い牙が覗かせる。
「ウガアアアアアアアア!!!!!!!!!」
獣のような叫びが鼓膜を震わせる。
スーツが破け、上半身が現わになる。
銀色の毛に覆われた上半身。
筋肉に覆われた、太い腕。胴体。
猛々しいその姿に圧倒される。
その姿、まさに"人狼"。
その姿、まさに"悪夢"
これは本当に、現実か。




