#7 ボス戦
―地下9階大部屋 12/22 午後2時 残り65時間―
足が竦む。手が震える。視界が霞む。
目の前の光景が理解出来ない。いや、頭が理解しようとしない。
あまりに非現実的な光景に思考は停止する。
「ウガアアアアアアアア!!!!!!!!!」
人狼がまた叫ぶ。
このままでは、鋭い牙かもしくは鋭い両爪の餌食となり、死ぬだろう。
でも、身体が動かない。
刹那、ぼやけた視界に銀髪の女性が写る。
夕姫だ。夕姫が4本ある柱の右手前の柱に近づき、手を当てる。
瞬時に柱を伝って高圧電流が流れ、人狼に襲いかかる。
凄まじい電流によろめくが致命打にはならず、態勢を立て直して夕姫に狙いを定め、突進を仕掛ける。
「・・・夕姫!」
我に返ってすぐさま銃を構える。
しかし、人狼の凄まじいスピードに狙いが定まらない。
夕姫はすぐさま柱に隠れて、地面から柱へ電流を流し込んで盾にする。
そのまま人狼は右腕を柱に突っ込ませ、電流の直撃を貰う。
「ガアアアアアアアア!!!!!」
人狼は全身を流れ続ける高圧電流に呻き声を上げる。
僕はすぐさま銃を人狼に構えて3連射する。
2発は人狼の腹部と右肩に命中する。
右肩の部分は体毛が硬いせいか弾がそれほど入らなかったが、腹部に当たった弾丸は腹部を貫通させて、傷口から血が吹き出る。
最後の1発は反動に耐え切れず、天井へ放ってしまった。
しかし、まだ人狼動きを止めない。
「ッ・・・なんてタフなの!?」
人狼は電撃の中、柱にめりこんだ右腕を動かそうとする。
「夕姫!一旦逃げるんだ!」
「でも!今止めたら!」
今止めても状況の打開にはならない。腕を抜いて襲いかかってくるだけだ。
今後こいつをどうするかという対策もない。
でも、今は夕姫の命が優先だ。
横の深夏を確認する。
震えていて、涙ぐんだ顔で座り込んでいる。
「深夏は今すぐここから逃げろ!」
僕は深夏の両肩を揺さぶって言う。
しかし、応答はなく虚ろな目をしたままだ。
「くっ・・・!」
僕は夕姫の元へ走り、腕を掴んで深夏とは逆方向に逃げる。
人狼は電流が止まった柱から腕を抜き、こちらに狙いを定める。
隣の柱へ逃げ込み、人狼の毛のない腹部を狙って拳銃を発砲する。
3発撃ったが、当たったのは2発。しかし、どちらも毛のある部分にあたってしまい、効果は薄い。
「このままじゃ・・・」
このままではジリ貧だ。
銃の弾はあと8発。毛のない腹部に当てようとしても、素人の腕では到底無理だ。当たっても2発ぐらいだろう。
それ以前に、8発撃ちきるまでに自分の腕が持ちそうにない。
夕姫の電撃も効いてはいるようだが致命打にはなっていない。
圧倒的な頑強さに対抗出来る武器がなく、今のままでは逃げることすら危うい。
今は凌ぐことしか出来ない。
「りゅうくん・・・」
深夏はいつになく真剣な表情で見つめてくる。
何か、何か方法はないのか。
人狼はこちらを向いて今にも飛びかかってきそうな勢いだ。
怒り狂った様子で、荒く息を吐きながらこちらを見つめている。
が、人狼はいきなり後ろを向いた。
僕達から標的を移したのだ。
その標的は・・・後ろで震えている深夏。
「しまった・・・!」
「深夏ちゃん!逃げて!」
声を掛けたときにはもう遅い。
人狼は深夏に向かって飛びかかる。
深夏は虚ろな目で向かってくる人狼を見つめるのみ。
もう駄目かと思ったその時、
突然人狼の身体が宙に浮いて、地面に叩きつけられる。
まるで、投げ飛ばされたみたいに。
「危なかったな、お嬢ちゃん」
深夏の前に大柄の男が一人。
某刑事ドラマで着てそうな渋めな色のミリタリーコートを着ており、顎の傷が特徴の30台中盤ぐらいの男性だ。
「えっ・・・あれ・・・」
我に返った深夏は自体が上手く把握出来ていないようだった。
人狼はすぐさま立ち上がり、男に飛びかかる。
「狼か人狼か知らねえが・・・戦闘のプロを舐めるなよ!」
人狼の突進を躱し、毛の覆われてない腹部に拳を突き入れる。
人狼は呻き声を上げながら前方へ仰向けに倒れる。
すぐさま男は人狼の身体を踏みつける。
「化物でも、人間の形をしてんならさ!」
男はポケットからサバイバルナイフを取り出して、撫でるように刀身に触れる。
するとサバイバルナイフの刀身が青白く輝き出す。
「心臓を刺せば流石に死ぬだろ!」
心臓の位置にサバイバルナイフを刺しこむ。
おびただしい量の血が吹き出す。
そして人狼は少し呻いた後静かになり、動かなくなる。
アナウンスが鳴る。
「No.008番が9階のボスを撃破しました」




