襲撃
黒煙の上がる方へ向かって三人は駆けた。
街道を外れ、森の中へ入る。
金属がぶつかる音が徐々に大きくなる。
そして。
視界が開けた。
「馬車だ!」
荷馬車が一台。
横転こそしていないが、車輪は壊れ、荷物が辺りに散乱している。
商人らしき男が数人。
必死に抵抗していた。
相手は――
「盗賊か」
十人ほど。
剣や斧を持った男たちが馬車を囲んでいる。
「金目の物を置いていけ!」
いかにも盗賊らしい怒鳴り声が響く。
「助けますか?」
エルドが落ち着いた声で尋ねる。
「聞くまでもねぇ」
グレンは剣を抜いた。
「行くぞ!」
三人は飛び出した。
「なっ!? 誰だ!」
盗賊の一人が振り返る。
返事の代わりに。
グレンの剣が振り下ろされた。
「ぐあっ!」
盗賊が吹き飛ぶ。
「な、なんだこいつ!?」
「三人しかいねぇぞ!」
「囲め!」
盗賊たちが一斉に襲い掛かる。
「シリア!」
「分かってる」
シリアは短く杖を掲げる。
「火炎」
盗賊たちは慌てて飛び退く。
「うわっ!」
「熱っ!」
その隙に。
「エルド殿!」
「お任せを」
エルドの魔法陣が足元に展開される。
「重力拘束」
盗賊たちの動きが一斉に鈍る。
「な、なんだ!?」
「身体が重い!」
「今だ!」
グレンが駆ける。
一人。
二人。
三人。
無駄がない。
かつて魔王軍を相手に戦った男の剣。
盗賊程度では相手にならなかった。
数分後。
「降参だ!」
盗賊の頭目が剣を投げ捨てた。
「もう戦わねぇ!」
グレンは剣を下ろす。
「最初からそうしろ」
盗賊たちは縄で縛られた。
商人は何度も頭を下げる。
「本当に助かりました……!」
「命の恩人です。」
「ありがとうございます。」
グレンは照れくさそうに頭を掻く。
「気にすんな。」
「困ってる奴を助けるのは当然だ。」
商人は少し迷うような表情を浮かべる。
「実は……一つお願いがあります。」
「お願い?」
「皆さんの強さを見込んで、この先の町まで護衛をお願いできないでしょうか。」
「もちろん依頼料はお支払いします!」
グレンはエルドを見る。
「行き先は?」
「エルミナです。」
「同じですな。」
エルドが地図を確認しながら頷く。
「ですが……」
「本来、この街道は護衛が必要になるほど危険な道ではないはずでは。」
商人の表情が曇る。
「ええ……。」
「実は最近、この辺りで盗賊が急に増えまして……。」
「増えた?」
シリアが聞き返す。
「はい。」
「以前から盗賊はいました。」
「ですが最近の盗賊は様子がおかしいんです。」
「様子?」
「商会では各地の情報を共有しているのですが……」
「ここ数か月、この街道だけでなく周辺一帯で盗賊被害が急に増えているようで。」
「急に?」
「はい。」
「それだけならまだよかったのですが……」
商人は苦い表情を浮かべる。
「襲われた商人たちの話を聞くと、どうも盗賊らしくないんです。」
「盗賊らしくない?」
「荷物を全部奪うわけでもない。」
「金目の物だけを狙うわけでもない。」
「護衛だけを執拗に襲ったり。」
「そんな話ばかりで……。」
商人は少し言葉を探す。
「まるで……誰かに指示されているみたいなんです。」
「……確かに。」
グレンが腕を組む。
「さっきの連中、盗賊にしては変だった。」
「変?」
シリアが視線を向ける。
「覇気がなかった。」
「ああ。」
「襲いかかってきたくせに、押し返されたらすぐ降参した。」
「命懸けって感じじゃなかったんだよな。」
エルドも頷く。
「言われてみれば、妙ですな。」
「盗賊というより……」
シリアが小さく呟く。
「仕事をやらされてる人たちみたいだった。」
その一言に。
三人は少しだけ黙った。
「……まあいい。」
グレンは肩に剣を担ぐ。
「依頼、受けよう。」
商人の表情が一気に明るくなる。
「ありがとうございます!」
「それじゃあ行きますかな。」
こうして三人は。
護衛依頼を受け。
共にエルミナへ向かうことを決めた。
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