再び旅路へ
王都の門が開く。
朝日を浴びながら、多くの旅人や商人たちが街道へと歩き出していく。
その中に、三人の姿があった。
「本当に出発するんだな」
グレンが振り返る。
王都の城壁。
五年前。
魔王討伐へ向かうため、この門を出た。
そして今。
再び同じ門をくぐろうとしている。
「あの時以来ですな」
エルドが静かに言った。
「ああ」
シリアも短く頷く。
五年前。
この門を出た時は五人だった。
勇者エリオス。
戦士グレン。
賢者エルド。
魔法使いシリア。
レンジャーのティナ。
今は三人。
グレンは小さく息を吐く。
「なんか変な感じだな」
「何がですかな?」
「いや」
グレンは頭を掻いた。
「また旅に出るなんて思ってなかった」
それは本音だった。
魔王を倒した。
戦争は終わった。
世界は平和になった。
だから。
あの日が人生で最後の旅になると思っていた。
「私も」
シリアが言う。
「学院の教師を続けると思ってた」
「向いてたのか?」
「さあ」
「向いてたんだろうな」
「なんで?」
「生徒に辞めないでくださいって泣かれたんだろ?」
シリアが少しだけ顔を逸らした。
「向いてたじゃねぇか」
エルドが小さく笑う。
五年ぶりの旅。
だが不思議と居心地は悪くない。
むしろ。
少し懐かしかった。
街道を歩く。
青空。
草原。
遠くの森。
五年前と同じ景色。
違うのは。
街道に人がいることだった。
荷馬車を引く商人。
家族連れ。
冒険者。
旅人。
平和だった。
魔王討伐前には考えられないほど。
「平和ですな」
エルドが呟く。
「ああ」
グレンも頷く。
道端では子供たちが遊んでいる。
商人たちは笑いながら商売の話をしている。
誰も魔王を恐れていない。
誰も明日を心配していない。
全部。
エリオスが守った世界だった。
しばらく誰も喋らなかった。
エリオスの名前は出ていない。
だが三人とも同じことを考えていた。
「覚えてますかな」
沈黙を破ったのはエルドだった。
「最初の野宿」
グレンが吹き出す。
「ああ、あれな」
シリアも珍しく頷いた。
「酷かった」
「酷かったな」
五年前。
旅が始まって最初の夜。
火を起こそうとしたエリオスは。
盛大に失敗した。
「勇者なのに火も起こせないんですか!?」
ティナが腹を抱えて笑っていた。
「最終的にティナ殿が火を起こしましたな」
「エリオス殿、めちゃくちゃ落ち込んでたよな」
「覚えてる」
三人の間に笑いが生まれる。
懐かしい思い出だった。
もう二度と戻らないと思っていた時間。
だからこそ。
少しだけ温かかった。
気付けば太陽は高く昇っていた。
「今日はどこまで行く?」
シリアが尋ねる。
エルドは地図を広げる。
「まずはここですな」
指差した先は小さな村だった。
「魔族の目撃情報があった場所です」
グレンが地図を覗き込む。
「三日ってところか」
「その予定です」
「遠いな」
「歩くしかありませんな」
「だな」
グレンは空を見上げた。
五年前。
隣にはエリオスがいた。
前を歩くティナがいた。
今はいない。
だが。
立ち止まる理由にもならない。
「行こうぜ」
グレンが歩き出す。
エルドが続く。
シリアも続く。
三つの影が街道を伸びていく。
その先に待つものが何であれ。
彼らはもう歩き始めていた。
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