再集結
王都は慌ただしかった。
新たな魔王の出現。
その報は瞬く間に世界中へ広がっている。
五年前の恐怖を知る者たちは不安に震え、若い世代は半信半疑でその噂を聞いていた。
そんな中。
王城の一室に三人の男女が集まっていた。
「久しぶりだな」
最初に口を開いたのはグレンだった。
五年ぶりに顔を合わせる仲間たち。
本来ならもっと別の形で再会したかった。
「お久しぶりですな、グレン殿」
エルドが微笑む。
五年の歳月は彼の髪にさらに白を混ぜていたが、その落ち着いた雰囲気は変わらない。
「久しぶり」
シリアも短く言う。
こちらも変わらない。
いや。
少しだけ柔らかくなったかもしれない。
少なくとも昔なら「久しぶり」すら言わなかった。
「ティナは?」
グレンが尋ねる。
「こちらを」
エルドが一通の手紙を差し出した。
グレンは封を開く。
見慣れた丸っこい字が飛び込んできた。
『グレンさん! エルドさん! シリアさん!
ごめんなさい!
故郷で少し問題が起きていて、すぐには王都へ行けそうにありません!
落ち着いたら必ず合流します!
ティナ=ベル』
「少し問題、ねぇ」
グレンは苦笑した。
ティナらしい。
あいつの言う「少し」は信用できない。
「ティナ殿らしいですな」
エルドも苦笑する。
「無事ならいい」
シリアが呟く。
「そうだな」
グレンは頷いた。
「少し問題があるって言う時ほど、大問題なんだよな、あいつ」
シリアが小さく頷く。
「間違いない」
久しぶりに三人の間に笑いが生まれた。
ほんの少しだけ。
昔の空気が戻った気がした。
「ん?」
グレンが手紙を畳もうとして首を傾げる。
「なんだこれ」
封筒の奥から何かが落ちた。
小さく編み込まれた紐細工。
だが。
よく見ると素材が普通ではない。
「毛……か?」
グレンが摘み上げる。
「これは……毛の束ですかな?」
エルドが眼鏡を押し上げた。
「獣毛だね」
シリアが即答する。
「ティナ殿のものでしょうか」
「たぶん」
グレンは紐細工を眺める。
「何だろうな、これ」
「獣人国のお守りか何かじゃない?」
シリアが肩をすくめる。
「『私の代わりに持っててください!』とか」
三人は顔を見合わせた。
そして。
「こういうところもあいつらしいな」
グレンが笑う。
「ですな」
「うん」
ティナはここにいない。
だが。
少しだけ。
本当に少しだけ。
四人揃った気がした。
ドンッドンッ!!!
その時だった。
扉を叩く音が響く。
「失礼いたします」
若い騎士が入室する。
どこか緊張した様子だった。
無理もない。
目の前にいるのは世界を救った英雄たちなのだから。
「陛下より資料をお預かりしております」
騎士は机の上へ書類を並べた。
「これが各地で確認された魔王軍の情報です」
部屋の空気が変わる。
グレンは資料へ目を通す。
魔族の襲撃。
村の焼失。
行方不明者。
五年前を思い出させる報告ばかりだった。
平和だったはずの世界が再び軋み始めていた。
そして最後の一枚。
新たな魔王について。
「目撃者の証言によれば」
騎士が続ける。
「その魔王は黒い鱗を纏い、人間にも魔族にも見えなかったとのことです」
グレンの眉が動く。
「さらに」
騎士は資料をめくる。
「その魔王は戦闘中、異様な金色の光を放ったそうです」
グレンが顔を上げる。
金色の光。
五年前。
魔王城。
エリオスの剣。
あの力。
シリアの目がわずかに見開かれる。
エルドは黙り込む。
騎士は続ける。
「詳細は不明です」
「ただ、生き残った冒険者は皆同じ証言をしています」
「以上になります」
騎士は一礼した。
「ご苦労様です」
エルドが答える。
騎士が退室する。
扉が閉まる。
部屋に静寂が戻った。
誰もすぐには口を開かなかった。
最初に沈黙を破ったのはグレンだった。
「……まさか、だよな」
自分に言い聞かせるような声。
だが誰も同意しない。
エルドは目を閉じていた。
シリアは窓の外を見ている。
五年前。
魔王城で見たあの姿。
人ならざる何かへ変わり始めていたエリオス。
あの続きを。
彼らは知らない。
「……エリオス殿なのでしょうか」
エルドが呟く。
その問いに答えられる者はいなかった。
しばらくの沈黙の後。
グレンが立ち上がる。
椅子が音を立てる。
「行くぞ」
エルドが顔を上げる。
「どちらへ?」
グレンは窓の外を見た。
五年前。
置いてきた背中を思い出す。
今でも夢に見る。
助けを求めていたかもしれない。
本当は連れて帰ってほしかったかもしれない。
それでも自分たちは帰った。
だから。
「決まってる」
グレンは答える。
「エリオスを探しに行く」
そして少しだけ間を置いた。
「今度は置いていかねぇ」
エルドは静かに頷く。
「賛成です」
「異論なし」
シリアも答えた。
こうして。
かつて世界を救った勇者一行は再び集結した。
ただ一人。
勇者だけがいないまま。
読んでいただきありがとうございます!
面白い!続きを読みたいと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると幸いです。




