それぞれの帰路
魔王討伐から一ヶ月。
王都は未だ平和の余韻に包まれていた。
戦争は終わった。
魔族の軍勢は各地で壊滅し、人々は失われた日常を取り戻し始めている。
勇者エリオスの名は世界中に広まりつつあった。
世界を救った英雄として。
その英雄がもういないことと共に。
「お前、本当に帰るのか?」
王都の門の前。
グレンは荷物を背負いながら言った。
その視線の先にはシリアがいる。
「帰る」
短い返事。
いつも通りだった。
「魔法学院か?」
「そう」
「教師なんて向いてるのか?」
「知らない」
「知らないのかよ」
思わず笑う。
シリアは少しだけ眉をひそめた。
それが彼女なりの不満顔だった。
少し離れた場所ではティナが泣いていた。
「うぅ……やだぁ……」
「ティナ」
「やっとみんなで帰ってきたのにぃ……」
大粒の涙を流しながら尻尾をしょんぼりさせている。
エルドが苦笑した。
「別に二度と会えないわけではありませんぞ」
「でも遠いじゃないですか!」
「獣人国と王都ではな」
「ですよねぇ!」
相変わらずだった。
戦いが終わっても。
何も変わらない。
いや。
変わってほしくなかった。
グレンは空を見上げる。
青い空。
平和な空。
そこにエリオスはいない。
「グレン殿」
エルドが呼んだ。
「なんだ?」
「故郷へ帰るのですかな」
「ああ」
「戦士団に戻るので?」
「どうかな」
グレンは肩をすくめる。
「しばらくのんびりするさ」
エルドは頷いた。
そして少しだけ視線を落とす。
「そうですか」
グレンは気付かなかった。
その言葉にどこか寂しさが混じっていたことを。
別れの時間はあっという間だった。
シリアは先に出発する。
ティナは何度も振り返る。
エルドは馬車へ乗り込む。
そして最後。
グレンは門の前に一人立っていた。
「終わったんだよな」
誰に向けた言葉でもない。
魔王は倒れた。
戦争も終わった。
勇者もいない。
だから。
終わったはずだった。
「また会えますよね!」
遠くからティナの声が飛んでくる。
グレンは思わず笑った。
「当たり前だろ!」
大声で返す。
ティナが満面の笑みで手を振った。
そして。
誰もがそれぞれの道を歩き始めた。
その日。
勇者一行は解散した。
誰も知らなかった。
五年後。
再び旅に出ることになることを。
そして。
その旅の果てに待つのが。
かつて世界を救った英雄であることを。
読んでいただきありがとうございます!
面白い!続きを読みたいと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると幸いです。




