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英雄のなれの果て  作者: 餅をこねる猫
プロローグ

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2/12

あの日の真実

燃えていた。


魔王城の至る所が。


崩れ落ちる天井。


砕け散る柱。


炎と黒煙が立ち込める玉座の間で、一人の男が膝をついていた。


勇者エリオス。


その足元には、討ち果たされた魔王の亡骸が転がっている。


長き戦いの終わりだった。


「……勝ったのか」


グレンが呆然と呟く。


返事をしたのはエリオスだった。


「みたいだな」


その声はひどく掠れていた。


グレンは思わず笑った。


「ははっ……やっと終わったな」


終わった。


ようやく。


何年も続いた旅が。


何度も死にかけた戦いが。


世界を覆っていた戦争が。


全部。


終わったのだ。


ティナが尻尾をぶんぶん振る。


「帰ったらお肉いっぱい食べます!」


「そればっかりですな」


エルドが苦笑する。


「だってずっと我慢してたんですよ!」


「私は寝たい」


シリアがぼそりと言う。


「それもそれでお前らしいな」


グレンが笑う。


久しぶりだった。


誰も死なない会話をしたのは。


だが。


次の瞬間だった。


「……っ!」


エリオスが苦しそうに胸を押さえた。


「エリオス?」


グレンの表情が変わる。


エリオスの身体から黒い光が溢れ始めていた。


いや。


それだけではない。


皮膚の一部が鱗へと変わっていく。


腕が軋む。


骨が鳴る。


人間の身体ではありえない音。


「エリオス殿!」


エルドが駆け寄る。


その顔色が変わった。


「まさか……龍の力が」


魔王を倒すため。


エリオスは禁忌に手を出した。


不老不死の龍が遺した力。


本来、人が扱えるものではない。


だがそれがなければ勝てなかった。


だからエリオスは選んだ。


世界を救うために。


「近寄るな」


エリオスが言った。


低い声だった。


「エリオス?」


「近寄るな!」


叫び声。


グレンたちは足を止めた。


エリオスの瞳が赤く染まり始めていた。


顔の半分を鱗が覆う。


背中から黒い棘が生える。


人ではない何かへ。


変わり始めていた。


「帰れ」


エリオスが言う。


「何言ってんだ」


グレンが前へ出る。


「帰れ!」


玉座の間が揺れた。


声だけで。


圧力だけで。


ティナが尻尾を丸める。


シリアが息を呑む。


エルドの額に汗が流れた。


そこにいたのはエリオスだった。


だが。


同時にエリオスではない何かでもあった。


「俺は……もう駄目だ」


「ふざけるな!」


グレンが叫ぶ。


「ここまで一緒に来たんだぞ!」


「だからだ」


エリオスは笑った。


いつもの笑顔だった。


旅の途中で何度も見た笑顔。


「だから、お前たちには生きて帰ってほしい」


グレンの言葉が止まる。


ティナの目から涙が零れた。


「エリオス様……」


「泣くなよ」


エリオスは困ったように笑う。


「また会えるかもしれないだろ」


「嘘です!」


ティナが叫んだ。


「そんな顔するときのエリオス様、絶対嘘なんです!」


エリオスは何も答えなかった。


ただ。


少しだけ視線を逸らした。


「行きましょう」


最初にそう言ったのはシリアだった。


グレンが振り返る。


「シリア!?」


「このままでは全員死ぬ」


冷たい言葉。


だが声は震えていた。


「だから……行く」


エルドが目を閉じる。


「エリオス殿」


「なんだ」


「申し訳ありません」


エリオスは苦笑した。


「なんで謝るんだよ」


崩落が始まる。


もう時間はなかった。


グレンは最後まで動かなかった。


動けなかった。


だが。


エリオスが怒鳴る。


「行け!!」


その声に背中を押されるように。


勇者一行は魔王城を後にした。


そして。


それが。


彼らが見たエリオスの最後の姿だった。

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