表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄のなれの果て  作者: 餅をこねる猫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/1

勇者なき凱旋

初投稿です。

皆様の暇つぶしの一つになればと願っております。

王都の大通りは歓声に包まれていた。


道の両脇を埋め尽くす人々。


色鮮やかな旗が風に揺れ、花びらが宙を舞う。


楽団の演奏が響き渡り、子供たちは肩車をされながら声を張り上げていた。


「勇者様だ!」


「魔王を倒したんだ!」


「世界を救った英雄だ!」


歓声の中、一台の馬車がゆっくりと王城へ向かって進んでいく。


馬車の上にいるのは四人。


戦士グレン。


賢者エルド。


魔法使いシリア。


そして獣人族のレンジャー、ティナ=ベル。


だが。


本来いるはずの五人目の姿はなかった。


「グレン様ー!」


「こっち向いてー!」


群衆から声が飛ぶ。


グレンは一瞬だけ表情を曇らせた後、無理やり笑顔を作って手を振った。


歓声がさらに大きくなる。


その横でティナは耳を伏せたまま黙り込んでいた。


いつもなら誰よりも騒がしい彼女が、一言も発していない。


シリアは静かに前を見つめている。


エルドは目を閉じたまま何も語らない。


誰も笑っていなかった。


馬車が王城前の広場へ到着する。


広場には国王をはじめ、大臣や騎士団長たちが並んでいた。


国王が一歩前に出る。


「勇者一行よ!」


広場に響く力強い声。


「よくぞ魔王を討ち果たした!」


大歓声が沸き起こる。


拍手。


喝采。


人々は英雄たちの帰還を心から喜んでいた。


国王は満足そうに頷いた。


そして、ふと辺りを見回す。


「……勇者エリオスはどこだ?」


歓声が止まった。


人々もようやく気付く。


勇者がいない。


世界を救ったはずの英雄の姿がどこにもない。


グレンは拳を握り締めた。


決めていた言葉を口にする。


「エリオスは……」


喉が渇く。


それでも続けた。


「魔王との戦いで命を落としました」


広場がざわつく。


誰もが耳を疑っていた。


「最後の一撃でした」


グレンは前を向いたまま続ける。


「エリオスは自らの命と引き換えに魔王を討ちました」


静寂。


そして誰かのすすり泣く声。


一人。


また一人。


勇者の死を知った人々は悲しみに暮れた。


魔王を倒した英雄。


世界を救った英雄。


その英雄は帰らなかった。


その日の夜。


王都は祭りに包まれていた。


酒場からは陽気な歌声が聞こえる。


広場では楽師たちが演奏し、人々は酒を酌み交わしていた。


魔王は倒された。


長く続いた戦争は終わった。


人々にとって今日は祝福の日だった。


もちろん、勇者エリオスの死を悼む者も多い。


王都中央広場には献花台が設けられ、人々は花を供え、祈りを捧げていた。


英雄の死を悲しむ声。


魔王討伐を喜ぶ声。


それらが混ざり合い、王都はかつてないほどの熱気に包まれていた。


だが。


王城の一室だけは違った。


遠くから祭りの喧騒が聞こえてくる。


グレンは窓辺に腰掛け、その音を聞いていた。


「いい気なもんだな」


ぽつりと漏らす。


ティナの耳がぴくりと動いた。


エルドは酒杯を傾けながら答える。


「魔王が倒されたのです。人々にとってはめでたいことでしょう」


「そりゃそうだけどよ……」


グレンは窓の外を見る。


夜空に打ち上がる花火。


響く歓声。


平和を喜ぶ人々。


自分たちが命を懸けて守ろうとした光景だった。


だからこそ胸が痛む。


シリアが静かに口を開く。


「私たちも、それを望んで戦った」


「分かってる」


グレンは短く答えた。


「分かってるんだけどな……」


部屋に沈黙が落ちる。


ティナは膝を抱えたまま俯いていた。


やがてグレンが呟く。


「これで良かったんだよな」


誰も答えない。


「俺たちがあいつを置いてきたのは」


ティナがぎゅっと拳を握る。


シリアは目を伏せた。


エルドは静かに酒杯を置く。


「……分かりませんな」


賢者の答えは、それだけだった。


誰も答えを持っていなかった。


グレンは再び窓の外へ視線を向ける。


王都の人々は祝杯を上げている。


英雄を讃えながら。


平和の訪れを喜びながら。


だが。


この部屋にいる者たちだけは知っていた。


エリオスは魔王と相打ちになどなっていない。


あの日。


魔王城で起きた本当の出来事を。


グレンは誰にも聞こえないほど小さく呟く。


「生きてるんだよな……エリオス」


その言葉に。


誰も否定しなかった。

読んでいただきありがとうございます!

面白い!続きを読みたいと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ