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銀髪碧眼の美少女暗殺者から「拒否したら心中する」と激重求婚されたので、ひとまず結婚を確定で同棲することになりました。  作者: 虎柄トラ


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第68話 居酒屋迷路

 髪を手櫛で整えながら博希は、ほくほく顔の未来に尾行していたわけを尋ねる。


「……それで、なんで俺をつけまわっていた? いい加減説明してくれてもよくないか?」

「ああせやったな。お開きになって、ちょうど店から出たら、トボトボ歩く博希を見っけてな。ただ声をかけるだけやと、おもんない思うて……ついな?」

「そうか。で、用が済んだのならもう帰っていいか」


 首を傾けて表通り方面に視線を向ける。

 その視線を遮るように未来もまた同様の行動をとってきた。


「ばったり出くわすとか天の巡り合わせやんか。やのに、そこでスンって帰るのはおかしない?」

「うなこと言われてもな。おまえもう飯食ったんじゃねぇのか?」


 地雷を踏んだようで未来は、眉をピクピクと動かして不平をこぼす。


「博希は分かってへん、なんも分かってへんわ。お客さんとの食事なんて、食うてへんのと一緒やで。ただの顔合わせで、そもそも食事を楽しむ場やない。ストレスばっか溜まって腹は一向に溜まらんのや。ってことで、うちのお勧めの店に案内したるから、そこで晩ご飯たべてかへん?」


 蛇のようにぐるりと腕を絡めとると、返事をする間もなく未来は歩き出した。腕の自由を奪われた博希は、止む無く彼女に従って移動を開始する。


 裏通りを抜けて表通りに出ると、また裏通りに入る。日光のように照らしていた街灯も進むにつれて徐々にその数を減らしていく。残念なことに今夜は月光に頼ることもできない。仄暗く入り組んだ迷路を案内人に導かれるがまま進む。


 陰陰な雰囲気も相まって西側の路地裏に思い出す。


 この東西南北、いまどちらに向かって歩いているのかも分からなくなる感覚。新たな迷路に挑戦している気がして楽しくなってきた。


「……どないしたん? なんか嬉しそうやんか?」

「ああちょっとな、この路地裏感があっちに似てて。なんかウキウキしてくるっつうか」

「そういうことかいな。ほんま博希は、あの頃からずっと変わらんな……はぁほんまに変わらん……」

「ため息つくほど、成長していないって言いたいのか?」

「いいや……そういうことや、ないんやけど、な。っと……次は、右に行くで」


 気まずそうに未来は口ごもりながら三叉路を指差すと、そそくさと先に歩いていった。急に腕を離して先行する彼女を追って博希は右へ曲がる。

 拓けた場所に出た。拓けているとはいっても、三方をビルで固められていて、唯一の出入口は来た道しかない完全な袋小路だ。他に迂回路もなく隠されすぎて、客どころか食材を調達するのさえ困難極まりない立地。現世から隔離されたような謎めいた空き地、その中央にその店はあった。


 そんな不便極まりない場所で営業しているだけあってか、店構えも相当なものだった。


 哀愁漂う寂れたもとい何とも味のある居酒屋。


 居酒屋と書かれた赤々とした提灯に、日に焼け色褪せて店の名前すら読めない暖簾、ひびの入った型板ガラスの引き戸。店頭に置かれた看板に、チョークでメニューが書かれているが、霞んでしまいそのていを成していない。止めとばかりに、店横には緑色の公衆電話が備え付けられている。


 時が止まった世界、別世界に迷い込んだ。はたまたタイムスリップしたと言われても、納得できそうな異質な店。だけど、その違和感はすぐに消えてなくなる。

 そんなことなど、どうでもいいと思えるほど、ダクトから立ちのぼる煙が食欲を誘うのだ。薫り高い出汁の匂い、醤油の焦げた匂い、海鮮の、肉の焼ける匂いが、自然と足を前に出させる。


 店内からこぼれる明かりで曇りガラスに人影が映り込んでいる。あの迷宮を踏破した猛者がいる。影がいくつか重なって見えることから、数名の踏破者(先客)がいるようだ。


「なんか明かりにたかる虫みたいやな」

「……いまなんか言ったか?」

「いいや、なんも言うてへん」


 首を横に振り否定しつつ未来は引き戸を引く。振り向き手招きすると、そのまま入店していった。

 店内から「おっちゃん、二人な!」と未来の声がもれる。今度は「らっしゃい未来ちゃん」と店主の威勢のいい声が聞こえてきた。そのやり取りから、未来が常連客だということが窺える。


「……この店の常連とか、あいつすげーな」


 あまりにも素朴な感想が口からこぼれた。


「何しとん、はよ入ってきいな」


 暖簾から顔を覗かせて未来が催促してくる。


「ああ……」


 未知の領域へと足を踏み入れる。


 カウンターにはイスが六脚、奥には四人用のテーブルが一つのみ。

 あとはトイレがあるぐらいで、全体的にこじんまりとしている。


「らっしゃい!」


 百点満点の笑顔で店主が迎え入れてくれた。和帽子に法被、前掛けと、誰もが思い浮かべる和食の料理人を体現した出で立ちをしていた。深く刻まれた笑いジワとシミ一つない純白の料理衣に、真っすぐと伸びた背筋。一目見た瞬間に心で理解できる。絶対にこの人がつくる料理は旨いと。


 まさに知る人ぞ知る名店。

 そして料理にしか興味がない。


 ある種、狂人だということもまた心で理解できてしまった。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。

特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。


他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。

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