第60話 大岡裁きってな~に
俺はいま大衆の面前で大岡裁きを受けている。
右腕を真白に、左腕を謎の少女により引っ張られている。両肩からミシミシと奏でてはいけないような音が鳴っている。頃合いをみて裁いてくれる肝心の大岡越前が、この場にいないことだけが残念でならない。
「手を放しなさいよ!」
「そっちが放す!」
一人の男を二人の少女が取り合っている。見世物として最高なはずなのに、人々は過度な反応はせずに通り過ぎていく。警備員を呼ばれてもおかしくないほどヒートアップしているにもかかわらずだ。
そうなっていないのは、未来の機転によるものだった。彼女はこれをイベントの一種として周囲に誤認させた。少女が身に纏っていた衣服が、新ブランドのそれだったからだ。
で、残りは何をしているのかというと。
未来はウキウキ顔で来場者を迎え入れている。
辰爾は黒歴史を後世に残さないように応対してくれている。
実弥は黒歴史を後世に残そうとスマホに書き留めている。
伊咲は血走った目でハンカチを噛み千切ろうとしている。
良心たる辰爾はともかく、残り三名いや二名は大岡越前役を立候補してくれてもいいのに。
「いい加減に博希お兄ちゃんから手を放してよ!」
「何度も言ってる。手を放すのはそっち!」
少女のお兄ちゃんという言葉が胸に突き刺さる。
楽しかったはずなのに思い出したくない過去の記憶。
(……俺をお兄ちゃんと呼ぶ……彼女は孤児院の子か……)
十年ぶりの再会、真白と同世代な雰囲気からして彼女は、中学生とみて間違いないだろう。となると十から十二ほど歳が離れていることになる。孤児院を出たのが十四歳だから、当時だと三歳から五歳ぐらいの幼児だ。
年齢で判断すると該当しそうな子が一人だけ思い浮かぶが、記憶が確かならその子は《《ついていた》》。この十年という月日の間に、そういうのがあってもおかしくはないが、だとしても骨格は変わらないはずだ。抱きかかえた時の感覚からして、同性だとは考えにくい。
(……孤児院でもないとすると……まさか? いや本当に……もしそうなら、成長度合い遅くないか……)
ここで久しぶりと名前を呼んだはいいが、間違っていようものなら左腕が分離する可能性が高い。だからといって、何もしなければ両腕が分離してしまう。一か八かで試してみるしかない。頭に浮かんだ人物であるならば、名前を呼んだ瞬間に手を放して駆け寄ってくるに違いない。ある種において、真白と瓜二つの性格をしているからだ。
「腕痛いから放してくんないかな、瑞希……?」
「うん、わかった」
秒で手を放すとトコトコと駆け寄ってきた。
ジーっとこっちを見たあとニコっと微笑みまた抱き着いてくる。
「……な、なにやってんのよ。博希も少しは嫌がりなさいよ!」
「つっても、こいつ俺の血縁者だぞ? 瑞希、彼女に挨拶をしなさい」
「はい、倉持瑞希十六歳です。いつも兄がお世話になっております」
「…………は? えっマジで言ってる?」
博希は目を閉じて頷く。
「う、そ、でしょ……」
その言葉を最後に真白はその場で項垂れる。
博希を奪い合った少女と二年後には血縁関係となる。
その事実に打ちのめされているのか、それとも事あるごとに家にやって来る未来でも見えたのかもしれない。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。
特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。
他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。




