第58話 チラリズム
午前中に映画を一本と早めの昼食、午後からはゲームセンターとさらに映画一本で、時間調整は完璧だった。
試着会が開かれる展示場は映画館から目と鼻の先にあるエリアだったこともあって、誘いを受けた仲間内のなかでは一番乗りであった。
白い壁板で空間をつくり床には赤い絨毯が敷き詰められている。あの壁板の配置を変更することにより、主催者が理想とする規模を自由自在に再現できる仕組みのようだ。
展示場の構造を真白に説明していると、ぞろぞろと知り合いが集まってきた。
博希組が二時四十三分。そこから五分後に辰爾が、その二分後に伊咲が、遅れること九分後に実弥さんという順番だった。
入り口前でたむろうと他の来場者に迷惑がかかるので少し離れた位置に移動する。
そこで立ち話をしていると、未来のアシスタントを名乗る人に控室に案内された。
八畳ほどの広さに、衣装を着たマネキンが壁際に五体並んでいて、左から順にサイズが大きくなるように置かれている。体格をコピペしたのかというぐらいに、マネキンを一目見ただけで誰がどの衣装を着るのか理解できた。
ただそれと同時に試着会って、こういうものだったっけという疑問がよぎる。
どちらかといえばファッションショーの類といったほうが正解なんじゃないか。
そのことに気づいたのは博希だけじゃなかった。刺賀姉弟と伊咲もまた無言で各々アイコンタクトを送っていた。伊咲は刺賀姉弟とは、はじめましてのはずなのに、長年の友人ように息ピッタリだった。そのなかでただ一人だけ、銀髪の少女は首を右へ左へと興味津々にマネキンを眺めていた。
アシスタントが部屋を去ると交代で未来が控室にやってきた。
騙したことを悪びれる様子もなく超絶上機嫌なご様子だ。
開口一番に未来は「博希は出てって」と退室するように促してきた。
「……俺と辰爾用じゃなかったのか、その衣装?」
「ああ勘違いさせてもたな、あれはうちと実弥の分や。よう見てみいや、あのマネキン女性やろ? それともスリットの入ったパンツが穿きたかったんか?」
未来に指摘されマネキンをもう一度確認してみると、女性用の服なのは明白だった。
なぜあんな勘違いをしてしまったのか、その答えはすぐに見つかった。今まで未来がデザインしていた服とはかけ離れすぎて、女性用という認識から除外されていた。未来はエロカワを重視しているから何かと露出が激しいものが多い。なのに今回は、その肌を極力見せないようなデザインだったからだ。
だからというのもおかしな話ではあるが、男女兼用だと誤認してしまったようだ。
マネキンの上部分は、シャツやブラウス、カーディガン。その上にジャケットを羽織っている。胸元がざっくりと開いていたりもしない。あまりにも普通すぎる。
新ブランドはエロカワを捨てたと思っていたが、そうではなかったようだ。前作が『堂々とエロカワでしょ』とするならば、今作は『よく見たらエロカワじゃね』といった感じだろうか。
今作は下半身、穿く物に重点を置いている。
腰あたりにスリットが入ったパンツとベルトにより僅かに生じる隙間から、マネキンの白色が顔を覗かせている。パンツの種類でスリットの位置や深さも違うようで、太ももやお尻が見えるように加工されているものもあった。
姿勢によりスリットが変化するに応じて見え隠れする範囲も変化する。
一見すると清楚な装いに見せといて、実はこんな機能を備えてます。
今作はその温度差、チラリズムによるエロカワで攻めるようだ。
(エロカワ、エロカワと俺はいったいなにを言っている……?)
未来ワールドに迷い込んでいると、急に辰爾が肩を組んできた。
「あたしは結構ありよりのありだけど、博希も興味あるのか? ならこの際チャレンジしてみるか!」
「あっいえ、結構です。んじゃ真白、伊咲、実弥さんまたあとで」
三人に挨拶を済ませて控室をあとにする。
「悪かったって、だから拗ねんなよ博希。おいてくなって~」
「うちの名前、呼ばずに行きよったな……」
半開きの扉から声が漏れているが、気にせず廊下を抜けて展示場へと向かう。
その途中で立ち止まり、追いかけてきた辰爾に質問を投げかける。
「……あれみんな穿く気なのか? 肌、結構みえるくない?」
「まあ見えるだろうな、でもあんくらい普通だぜ? ああ真白ちゃんか……」
「真白もそうなんだけど、伊咲も心配だ。セクハラになるから、あんま言いたくないけどさ。あいつスタイルがさ……?」
「確かにあの子は凄いものを持ってるな。でもな、百歩譲って真白ちゃんはまだ分かる。けど後輩ちゃんは違くないか?」
辰爾が何を言いたのか分からない。
後輩のことを心配して何が悪いというのだ。
「なにが違うと?」
正気かと言わんばかりに辰爾はマジマジと顔を覗いてくる。
「着るか着ないかは、彼女たちが決めるんであって、あたしたちがどうこう言うのは、お門違いってこと」
「そういうもんなのか。でもさ、何があるか分からないご時世。それで事件に巻き込まれる可能性がっ!?」
「博希は独占欲が強いつうか、どんだけ心配性なんだよ。って、おまえは昔からそういうやつだったわか。あたしが言いたいのはね。彼女たちの意見も尊重してやれってこと。そんなんじゃ、そのうち真白ちゃんから三行半を突きつけられるぞ……ガチで」
「…………嘘だろ? これからって時に、そんなことあり得ない……」
「例えだ例え……もしもの話だから落ち込むな。あーもう、その突発性豆腐メンタルまだ完治してねぇのかよ!?」
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