第54話 エロカワの誘い
ある日の日曜日、いつものように真白とだらけているとスマホが鳴った。
休日にスマホが鳴るイコール休日出勤要請だったこともあり、あれから二か月弱たってもその音を聞くと体がびくっと反応してしまう。職業病というよりも、ここまでくるとパブロスの犬を患っているんじゃないかと思えてくる。
机上で鳴り続けるスマホを拾いあげる。
着信相手を一瞥したのち応答をタップして耳にあてる。
「……倉持はただいま電話に出ることができません。ピーっとなったあとに伝言を願います」
「雑いわ、博希あまりにも雑過ぎる……やるんなら、もうちょい上手い感じでやりぃな。やる気が微塵も感じられへんのやけど」
「仕方ないだろ。日曜日、未来からの電話、絶対に面倒くさいやつに決まってるだろ、休みぐらいぐ~たらさせてくれよ。それに九時は早いって……」
「毎日七起きやったやつがなに言うとんねん。ぐ~たらしたかったら別に構わへんで、強制してまで参加してほしいとは、うちも思ってへんよ。ただな、うち寂しさのあまり、あの夜の出来事を一部始終を包み隠さず、真白ちゃんに言ってしまうかもしれんけど、それでもええか?」
「……まだちょっと燻ぶってんだから止めてくんない。マジでそういうとこ商売に活かせよ。わかったよ、んで参加ってなんだ? 今日なんかやる予定なのか?」
「璃奈ちゃんからも言われとんよな、あの子アドバイザーとしてガチで雇いたいわ。ごめんごめん、話が逸れたな。今日の十五時から、試着会があってな――」
未来からの電話は、彼女自身が手掛けた新ブランドの試着会があるから、それに顔を出してみないかというものだった。刺賀姉弟に伊咲も参加するらしく、真白も是非にということだった。真白を参加させるためには、まず外堀を埋めなければならない。そのためにわざわざ真白の連絡先を入手しているくせに、俺に電話をかけてきたというわけだ。
「――ってのがあるらしいんだが、真白行かないか」
「私はどっちでもいいけど、博希は行きたいの?」
「行きたいというか行かざるをえないというか……」
頬を指先でポリポリと掻きながら真白の問いに素直に答える。
言動や行動から察したようで真白は参加を表明してくれた。
「はあわかった、行こう博希。試着会ってことはいっぱい服があるってことでしょ、どんなのがあるのか私も見てみたいし……」
「ご理解いただきましてありがとうございます」
「それやめてって前に言わなかった? またやったら次からもうお弁当つくってあげないよ」
ぷいと顔を逸らして怒った素振りをみせている。
その演技にあわせてこちらもまた同調しやり返す。
顔をぐしゃぐしゃにして全力でダサいキャラを演じてみる。
ドラマやアニメから仕入れた知識。
この場合だと、彼女から別れ話を切り出されたヒモな彼氏、このあたりを模したらいい感じかもしれない。
「そ、それだけはご勘弁を。その弁当が楽しみで午前中頑張っているといっても過言じゃないんです」
「わかった、わかったから。しがみついてこないでぇ~!」
「よし言質はとった。さっ行こうぜ真白!」
即座に真白から手を放し立ち上がると、外着に着替えるためハンガーラックへ向かう。
真白は口を尖らせて何か言いたげな様子だ。目つきも獲物を狙う肉食獣のような鋭いものへと変化している。
「……そんなことばっかしてたら、いつか痛い目を見ると思うよ、博希」
「はっはは……冗談ですやん。だからそんな目で見ないでくれ。せっかくの綺麗な碧眼が台無しだよ」
いつもの調子で場を濁そうとするが、恐ろしいまでに何も変化がない。以前ならこれですんなりと機嫌が直っていたというのに、真白は眉一つ反応していない。効果はいまいちのようだ、どころの話じゃない。まったくのダメージゼロ。ワンドットすらも削れていなかった。
「博希が慣れてきたように、私も慣れてきていることを理解した方がいいと思う」
「誠に申し訳ございませんでした」
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