第47話 エロカワの権化
来宮未来、プリンヘアな金髪ギャル。小学校時代からの悪友であり、博希の数少ない友人のひとり。孤児院育ちの博希を色眼鏡で見ることなく、友達になってくれた最初の人物。博希が自暴自棄にならずに済んだのも彼女の功績が大きい。
気に入った相手を見つけるとスキンシップせずにはいられない陽の者。関西弁とその陽気な性格から、誰とでも仲良くなり友達は大勢いた。博希もその友達のひとりにすぎなかった。
中学校にあがると、その性格と容姿が災いして、根も葉もない悪い噂を流されるようになる。波が引くように次々と彼女のもとを去っていった。そのなかで唯一、博希だけは隣に居続けた。その頃に形成された関係性が今なお続いている。
博希にとって同性の親友が辰爾だとすれば、異性の親友は未来。粗雑に扱ったり語気が強くなるのも、二人を信用し気を許しているからにほかならない。
そんな未来の職業はファッションデザイナー。未来が身につけている衣服は、全て彼女がデザインしたものである。
知り合いに服飾のやつ多い? 多くない?
「真白、紹介するよ。この痴女の名前は来宮未来といって、小学校からの腐れ縁だ。以上」
「短すぎん? もうちょいなんかあるやん。初恋の相手やったとかでもええし、友達以上恋人未満の関係ですとか。そんだけやと真白ちゃんにただの変態やと思われへんか?」
「記憶を捏造する気はない。ついでに言うと未来……もう手遅れだ。真白の目を見てみろ。警戒心マックスな野生動物の目をしているだろ。つうかだな、おまえはもう少し恥じらいをもて。それで何十人と、勘違い野郎を生み出したと思ってんだ……マジで反省しろ! 今ここで猛省しろ!!」
「なんの慰めにもなってへんやん。そうは言うけどな博希、うちかて毎回あんなことしてるわけやないよ。博希とか、ほんまに仲のええ人にしかせえへんし、あっ真白ちゃんは特別やからな♪」
ここぞとばかりに未来は、正面奥にいる真白に向かって投げキッスにウインクとアピールをしている。それだけで済んでいることに博希は安堵していた。場所が場所ということもあり、彼女が感情の赴くままに行動しようものなら、惨事が起こるのは明らか。
それでも博希は一抹の不安を抱かずにはいられなかった。だが、そんなことよりもいまは未来の軽率な行動について説教をするのが先だ。
「だとしてもだ。もうちょい自重しろ、何かあってからじゃ遅いんだぞ……」
「そんなにうちのこと心配なん?」
「そりゃあな。おまえよりも長い付き合いの友達なんていないしよ。何かあったら、辰爾も実弥さんにも迷惑かかんだろ?」
「そっか……そうやな、お得意様に迷惑をかけるんは商人失格や」
未来がデザインした衣服の一部は、刺賀姉弟の店にも卸している。人気は上々で入荷するとすぐに完売するらしい。
「はいそこ、私をほったらかしてイチャイチャしない! あんまり調子にのってると、博希の友達だとしても首を掻っ切るからね」
横隣で沈黙し凍てつく視線を未来に向けていた真白が、辛抱耐えきれずといった感じで声を荒げて会話に入ってきた。
「あ~ん、焼きもちを焼く真白ちゃん……かわゆい♪」
その意見には同意できるが、その後の行動については同意しかねる。嫌な予感というのは的中するものだ。未来はこっちに向かって全力で駆け寄ってきた。
そう観覧車という閉鎖空間でドタバタと動きやがったのだ。
その前後に揺れるたびに、ギシギシミシミシと金属が軋む音が恐怖を駆り立てる。この落ちるかもしれないという心理的な恐怖は、ドゥームコースターを遥かに凌駕する。あっちはそうなったら終わりかもというどこか楽観的に考えられるし、乗車時間も三分未満と短い。それに対して、こっちは一時間を要する。しかも、乗ってから五分も経っていない。まだ十倍近くこの環境下にいなければならないのだ。
(……ああくそ、会話で恐怖を逸らそうとしたけど、話す内容をミスった。だが、まだ舞えるはずだ! 頑張れ、俺、頑張れ、倉持博希)
その隣では目から光が失われていく真白の姿があった。マズい発想ではあるのだが、その絶望している顔を見たら、この程度なんてことはないと思えてきた。自分よりも怖がっている人を見た時の心境といいますか、なんつうか凄く落ち着きてきた。
その達観した落ち着き様は、まさに賢者といわざるをえない。
未来による全力頬ずり。俺も幾度かされたことがある。何とも懐かしい光景だ。スキンシップレベルでいうと、先の圧殺クッションの一つ二つ上のレベルに位置する。
仲が良ければ良いほど、未来は直接肌を触れ合おうとしてくる。クッションの場合だと、服と肌になるが、今回の頬ずりだと肌と肌になる。つまり出会って早々真白は、二十年来の友人と同列の扱いを受けているということだ。
男女問わず友達が多い未来とはいえ、初対面の相手に対してここまで高レベルなスキンシップを行ったところを一度も見たことがない。刺賀姉弟の時もそうだったけど、真白は天性の人たらしなのかもしれない。
「あああああああ……博希、この人苦手……言葉通じない……」
「だろ? でも大丈夫だ、すぐに慣れる。思春期真っ盛りな中学時代とかにも、あのスキンシップをされたけど何にも思わなかったぞ。デッカイ犬がじゃれてきたと思えばいい」
「……あんなバインバインでエッチな犬がいるわけなくない?」
「そう思うだろ? でもな、そのうちゴールデンレトリバーに見えるようになるから、それまでの我慢だ」
「……わかった。博希、私頑張るね!」
「おぅその意気だ」
二人の話を聞いていた未来は「……なんかうち、えらい悪口言われてへん??」とポツリと呟くのであった。
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