第43話 ショータイム
「……なにしてんの?」
「勇者に慰労を、な」
「ふーん? 博希、つぎ私あれに乗りたい!」
無邪気な笑顔を見せつつ真白は右手で次の標的を指差し、左手はゲートを通過する前の状態に戻っていた。
「と、我らの姫が仰っておりますが、辰爾殿はどういたす?」
「まずその話し方やめろ、キショいぞ博希。あたしはいいよ、二人で行ってきな。ここで、こいつの面倒をみとくよ。それを見る限り、真白ちゃんもおまえと二人っきりになりたそうだしな」
辰爾は舞い飛ぶ羽虫を払うかのように手を左右に振るい、博希と真白の手が重なった箇所にウインクを送る。
「……そっか、んじゃちょっくら行ってくるよ」
「ああ久々の遊園地だ。存分に楽しんでこい」
「辰爾またあとでね、実弥をよろしくっ! 行こう博希~♪」
「悪いな……いやありがとうな、辰爾。って、分かった分かったから引っ張るなっての。急がなくてもアトラクションは消えたりしねぇよ」
「消えなくても、乗れる回数は減る! まだまだ乗りたいのある。だから最後までついてきてね、博希!! さあまだ見ぬ世界へ旅立とう!!!」
「……あれ? おまえそんなキャラだったっけ……!?」
ドゥームコースターにより昂った感情から、真白は熱血キャラへと変貌を遂げた。その唐突なキャラ変から繰り出される熱気を帯びた言葉。博希は悟った、真白が満足するまで解放されることはないと。精神的な呪縛だけじゃない、物理的にも不可能。指同士をからめた恋人結びが、そのことを物語っていた。
最愛の人との地獄めぐりは、言葉では言い表せない稀有な体験となった。
最初に乗ったのは、メリーゴードリップと呼ばれるウェアハウスランド版のメリーゴーランドだ。吹き飛ばされそうな高速回転により、乗客の三半規管を破壊することに定評のある遊戯。各乗り物には安全帯が備え付けられている。乗る前にはスタッフからエチケット袋も提供される。なので、安心安全に遊戯を思う存分楽しめる。
例外に漏れず、博希の三半規管はぶっ壊された。視界は揺れるし吐き気も止まらないしで絶不調。もしもに備えて酔い止めを服用していたけど、それでも余裕で貫通してきた。
その後については、まさかのドゥームコースターのおかわりがあったりと、アトラクションを片っ端から遊んだり乗ったりしていった。昼頃に一度、刺賀姉弟と合流して昼食をとった。真白と辰爾が食欲旺盛なのに対して博希と実弥は食欲不振。絶不調組が注文した料理の九割九分は絶好調組の胃に収まった。
結局、復帰した実弥さんと介抱疲れの辰爾と再合流したのは、魔境で再会してから約六時間後であった。
沈みゆくオレンジ色の太陽、青紫の空に星々が色めき始める午後四時、パーク内にいるゲストが十字路を囲うように列をなして、固唾を飲んでその時を待っている。
博希たちもまた彼らと同じように十字路で待機していた。ただ前後左右が分からなくなるほどの人混みをご遠慮したい四人は、十字路沿いから少し離れた高台に陣取った。同様の考えを持ったゲストを交えて他愛無い会話をしていると、その時が訪れた。
左手側から大仰な音楽を響かせながら貨物列車を模した乗り物が、徒歩のような低速で十字路を走る。先端の車両には、頭にチェーンソーが突き刺さったピエロがハンドルを握り、右へ左へと笑顔を振りまく。連なるコンテナ車両の両扉は開かれていて、そこには色とりどりの衣装に身を包んだゾンビが、音楽に合わせてキレッキレなダンスを踊っている。
真白は興味無さそうに「……なんこれ?」と顎杖をついて尋ねてきた。初回あるあるすぎる反応に他三名は微笑し「もうちょいしたら分かる」と声を合わせて答えていた。
点在するアトラクションに比べたら見劣りするショー。他所のテーマパークの方が、ずっと見ごたえがある。ただある一点、この【クリムゾンデッドショー】には尖りに尖った仕様がある。彼らが蟻のように群がるのも、それを体験したいからに他ならない。肉眼で観たいけど体験はしたくないという人たちは高台に避難する。
しばらくすると、ダンサーゾンビがコンテナの影から水鉄砲を次々と取り出す。透明なタンクのなかには、真っ赤な液体が満タンに入っている。十字路沿いに集まっていたゲスト一同の手にも、様々な大きさの水鉄砲が握られている。スタッフが赤なのに対して、ゲストは青い液体が充填されていた。
「……なにが始まるの?」
「見てたら分かる」
ピエロがマイクを片手に高らかに宣言する。
『ボクたちをイカしてみせろやぁぁぁぁあ!!!!』
熱狂的な絶叫がこだまする。その刹那、花火が盛大にあがった。
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