第40話 特別待遇
はぐれないように四人で手をつなぎ、ゲートへ向かっていると左端の辰爾が「こっちだ」と急に手を引っ込めてきた。博希、真白、実弥の順で連鎖的に方向転換を強いられる。これ自体がアトラクションの一種のように真白は喜んでいたが、右端からは「チッ」とラップ音が奏でられていた。
弟の辰爾は上下ともにコーデュロイでまとめていて、グレイのジャケットにブラックのパンツとレザーブーツ。どこぞのモデルかと思わせるほど完璧な着こなし。女子高生にカリスマ店長と敬われるだけのことはある。
姉の実弥は仕事着同様にスーツ姿。これもまた自作した衣装なのは明白。今度のは陰陽師的な作品なようで、背中にデカデカと六芒星が刺繍されている。場所が場所なら写真撮影が始まりそうな出で立ちをしているが、これまた文句なし百点満点。
そんな二人に対して俺はというと、ロンTにジーパン、防寒対策としてダウンジャケットを羽織っている。ついでにいうと、真白はいつもの真っ白装備である。部屋では別の服を着ていても、いざ出かけるとなったら即行で着替えてしまう。仕事柄というのもあってか、この服装以外での外出に違和感を覚えるらしい。
辰爾に引っ張られるがままゲート端へと移動する。チケット売り場とは正反対の場所で、ここだけ不自然なほどに人が少ない。来た道を振り返ると入場待ちの列が幾重にも連なっているのが見える。正面に視線を戻すと、従来の巨大なゲートとは異なる、こじんまりとしたゲートがあった。そこにスタッフが一人佇んでいた。黒髪を眉毛の上で綺麗にパッツンと切りそろえた女性で、真白と同じ碧い目をしていた。
そのスタッフはニコリと微笑み言葉を紡ぐ。
「パスポートのご提示をお願いします」
辰爾は左手を開き年パスを提示すると、スタッフは手に取ることもなく眼球のみを動かしてチェックを終える。真白の尋常ならざる動きを間近で体験していなければ、その早業に気がつかず見逃していたことだろう。
このスタッフは、一フレームにも満たないわずかな時間に、腰につけたスキャナーを手に取り年パスにかざしていた。その一連の動作に舌を巻くと同時に、正常に読み込むスキャナーの高性能さにも感動を覚えた。
「……はい結構です。次の方、ご提示お願いします」
スタッフから年パスを提示するように促される。
両手が塞がっている博希は手を放そうとするが、右手が接着剤でも塗ったかと思うほど離れないことに戸惑う。隣の真白に目を向けてみると、血走った瞳で左手を眺めていた。絶対に離してやるものかという強い意志を感じる。
やれやれと肩をすくめる辰爾に少しだけイラっとした。
「見てないで手伝ってくんねぇかな、辰爾君?」
「ごめんごめん、微笑ましくて、つい……はい、これ」
辰爾は手が塞がっている博希に代わって年パスをスタッフに見せる。辰爾に続いて、真白の分は実弥が、実弥は自分でそれぞれ提示していった。
「……はい結構です。ご提示いただきまして、ありがとうございました。ゲスト様入場いたします、では皆さま、良い一日を」
その言葉とともにスタッフが深々と頭を下げると同時にゲートが開いた。
見送られるかたちで、俺たちは思い思いにゲートを通過するのであった。
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