第30話 驚異の五連休
真白の献身的な看病により一時は回復した博希だったが、病み上がりの状態でフルスロットルで動きまくったことで、案の定風邪をぶり返してぶっ倒れた。
さすがに連休はマズいと出勤しようと試みる博希だったが、真白の手によりことごとく失敗した。結局、一度も出勤どころか部屋から出ることさえも叶わなかった。
完治したと真白が判断するまでの丸四日、介護ですかと思わんばかりの手厚い看病を受けて過ごした。その限界を超えた養生により、本人ですら信じられないほど体調万全。そのなかでも特に博希が吃驚したのは、あの深く刻まれたクマが見る影もなく消失していたことだった。
それもそのはず栄養バランスを考えた食事に、塵の一片すらない行き届いた掃除、十分な睡眠時間の確保などなど。いまのいままで不足していたものが全て真白により補完されたのだ。これで全回復しないほうがおかしいというもの。
博希は月曜に続き入社以来はじめてとなる有給休暇を取得、しかも五日分を一気に消化した。社畜特有の責任感からくる罪悪感に押し潰されていてもおかしくはない状況。にもかかわらず、平然とこの現状を受け入れていた。
初日は、もう『時すでに遅し』だったことや心配する真白のためにも自重し出勤は諦めた。
二日目は、会社に連絡を入れると話しかけるよりも先に、上司から『ご自愛ください』という耳を疑うような気味の悪い言葉がスピーカー越しから流れてきた。明日も休みというのは真白の巧言だと思っていたけど、上司の言葉から噓偽りはなく紛れもない真実を告げていたことを知った。
三日目以降については、もう言わずもがなである。初日の段階でカタがついていたということだ。連絡の必要もなく、上司の方から一報が入り『業務は気にせず今週いっぱい休みなさい』と優しい言葉をかけられた。その言葉が耳に届いた瞬間の虫唾が走る感覚を、俺は一生忘れることはないだろう。
入社してから一度も取得できなかった有給休暇をこうも容易く、上司が承認した理由。
その目星も付いてある。この五連休中盤辺りで、真白がポロっと内情をこぼしたことがある。
『博希知ってる? 倉神町にはね、裏稼業連盟の日本支部があるんだよ。でねでね、そこから暗殺者は仕事を仲介してもらうんだ』
裏稼業連盟は暗殺者を取りまとめる組織のことだろう。で、その日本支部が我らが故郷、倉神町にある。マフィアとかが陰で町を牛耳っているとか、小説や映画等の媒体でしか見聞きしたことがなかった。現実は小説より奇なりってことで、実在している上にしかもこの町が該当しているわけだ。
フィクションだと思っていたけど、本当にあるんだなと思いました。
暗殺者を妻に迎えておいて、何をいまさらって思うだろう。大丈夫だ、俺自身もそう思っている。
事の顛末としては、真白の優しい説得に上司が応じてくれたというわけだ。
それはさておき、真白にはもう少し危機管理能力を養ってほしいところだ。どこから情報が洩れるか分からないんだから、あまり話題に出さないようにと口をすっぱくして言っている。だが残念なことに期待できるほどの成果はいまのところあげていない。信用してくれるのは嬉しいけど、もう少しお口にチャックをして欲しいものだ。
本職の真白からしたら、さして支障がないからこうやって話しているんだろうけど、それを聞かされる一般人は身が持たない。万が一のことあっても彼女がいれば、命が危険にさらされることはない。それも分かっている。ただ四十センチ近い身長差がある小柄な女の子におっさんが守られる。当事者としては、なかなか辛いものがある。でも、嬉しそうに話す彼女を制止させるようなことはしたくはない。夫婦揃って何とも面倒な性格をしているのやら。
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