第29話 下着は別々
普段の俺なら気づいたかもしれないけど、先ほどの俺にはその作戦は通用しない。なぜならベッドメイキングを完遂させることで頭がいっぱいだったからな。
「残念だったな真白。もうなにもかもが手遅れだ。見よ、このしわ一つないシーツを、ふわんふわんの羽毛布団を、この誘惑に抗える人間がいようはずはない。てことで、シャワー浴びてくる」
勝利宣言を含んだ内容を言い残し、買い出しダッシュでかいた汗を流すため洗面所に向かう。ドアノブに手をかけたところで、呆然と立ち尽くして物言わぬ人形と化していた真白が急に声をかけてきた。
「……ああ? うん。あっ、ちょっと待って博希!」
「いきなり大きな声を出すなよ、焦るわ。んで、なんか用か? ベッドのことなら聞く耳もたんぞ」
「そっちはもういい。そうじゃなくて、あのダンボール開けていい?」
真白は居間の端に寄せておいたダンボールを指差して尋ねてきた。
あのダンボールには、刺賀姉弟んとこで購入した品々が入っている。
新品のスーツが二着と修復したスーツが一着、残りは全て真白の衣服となっている。
一緒にダンボールを開封するとなると、あれこれと見てしまう。そういう意味合い的にも彼女単独でやってもらったほうが良いかもしれない。
振り返り居間を見回した時に買い忘れていた物があることに気がついた。ただそれを購入したとして、今度はどこに配置するかという問題が新たに生じてしまう。
「いいけど……真白の服とか、どこに仕舞うか決めてなかったな……」
「うん? そこのハンガーラック空いてるからそこでいい」
「これ使うのか……下着はどうする気だ?」
「それは博希が使っているケースを使う。隙間だらけで、私の分も全然入る」
「あーえー、いやそうかもしれないけど……同じケースに入れるのは違くない?」
「それって、私の下着を入れるのが嫌ってこと?」
真白の目からハイライトが消える。
ジト目の上目づかいで、こっちを見てくる。
可愛い仕草のはずなのに、なぜだか見ていると体が震えてくる。
「そうじゃない。なんつうか、一般論的にさ。男女の下着を同じ場所に入れないだろ……?」
「大丈夫、私は気にしない。それどころか一緒にあると安心するっ!」
鼻息荒く矢継ぎ早に答えてきた。
消失していたハイライトも復活していた。バックライト機能でもあるのかってぐらいに、煌々と輝いている。
普通は嫌がるところなのに『バッチコーイ、ウエルカム』と受け入れる気満々だ。さっきとはまたベクトルの違う恐怖が体を強張らせてくる。
着ている状態ならまだしも、下着単体を見たからって別段、駆り立てられることはない。が、線引きというかマナー的にも分別は必要だろう。引き出しを開けたら、そこにトランクスとパンツが並列されている。そんな光景を許容するわけにはいかない。
なんで俺の方が恥じらわないといけないんだよ、寧ろ真白の方が恥じらってしかるべきじゃないか、何を平然と答えてんだよ。この考え方も偏見だとか差別だとかいわれるのだろうか、本当に世知辛い世の中になったものだ。
「お前の言い分も分からんでもないけど、これだけは却下だ。親しき中にも礼儀あり、男女の衣服は別々に仕舞う。混在などもってのほかだ」
「ぐぬぬぬぬぬ……わかった、《《下着は》》別々にする。それでいい、博希?」
「ああ悪いな、この埋め合わせはいずれまたな」
「ほんと博希って変なところで頑固。で、私の下着はどこに仕舞えばいい?」
「ああそれなら……よじ……ううん、ごほごほ……ちょっくら行ってくるわ」
「はあ……? いってらっしゃい?」
その四次元パーカーに収納すれば……って、危うくまたノンデリ発言をするところだった。下着を常に持ち歩かせるという発想がヤバすぎる。真白専用収納ケースの購入は必須事項、置き場所なんてあとで考えればいい。それに真白の服をかけるとなると、ハンガーの数も全然足りない。
こうして博希は、またグラッセ大御門へと駆けるのであった。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。
特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。
他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。




