第28話 膝に小鹿を飼ってるのかい
無断欠勤してしまったかと焦ったが、真白が会社に連絡を通していたようで心置きなく休むことができた。どういう立場で、会社に連絡したのかが気掛かりではあったけど、のちに一報を入れた際の上司の対応から、なんとなく察することができた。
妻としての顔でも従妹としての顔でもない、もう一つの顔を行使したのだと。
食後のデザートとして桃を頬張ったのち、風呂に入って汗を流す。
綺麗サッパリしたところで次にベッドメイキングに取りかかる。
汗臭いベッドに真白を寝かせるわけにはいかない。
不潔だし綺麗な状態で寝て欲しいと思う俺とは正反対に、真白はそのままでいいと反旗を翻してきた。
真白曰く『博希に全身を包まれている感じがして、天をも昇る心地良さ』だそうだ。それを洗い流すなんで言語道断。
そんなわけのわからない言い分など知るか。汗で湿って羽毛の羽の字すらも堪能できない布団に、汗で人の形を形成しているシーツで寝るなど言語道断。
正直な話、自分の汗が染み込んだ布団に包まって寝られるとか、こっちが恥ずかしくて耐えられん。あの言い草からして体験談っぽいのだけど、まさかとは思うが試してはいないよな……。
「あーくそ、せっかく風呂に入ったのにまた汗かいてきた」
「だからそのままでいいってばぁ~」
「だまらっしゃい。俺は綺麗なベッドで寝たいの! それに真白にも綺麗なベッドで寝てもらいたいの!!」
「ううう……そこで私の名前だすのはズルい……」
押し入れには辰爾が泊まりに来た時に備えて購入した予備の布団がある。その布団を使えばこの問題を解決することはできる。だが懸念材料がないわけじゃない。
それは布団を押し入れに仕舞った記憶はあるのだが、干した記憶が一切ないことだ。辰爾が来ると毎回、夜が明けるまで酒を飲みかわす。結局、用意した布団を押し入れから出すことも敷くこともなく解散となる。
そこから自然と答えが導き出される。開封の儀を行って以降、一度たりとも押し入れから出していないのだから、干した記憶が無くて当然なのだ。
押し入れの奥底で眠る布団に包まれるぐらいなら、汗を吸いまくって重たくなった布団に包まれた方が……あまりにも最低すぎる二択。
幸いにもこの部屋にはファミリーサイズの洗濯機が備わっている。なのでぶち込みさえすれば、どちらも利用可能となる。如何せん乾燥機は備わっていないので乾かす術がない。ベランダで乾かそうとしても、お天道様はすでに就寝しているので期待はできないだろう。
ということで入浴後、第三の選択を用意するため急ぎグラッセ大御門へ向かった。その目的は言うまでもなく、新品の寝具を手に入れるためだ。
スマホにメモっておいた寸法を頼りに適切なものを選び、寄り道することなく帰路につく。
そして、圧縮袋の封を解き空気に触れさせる。その間に、ベッドから旧寝具を剥ぎ取り洗面所に退避させる。本来の姿を取り戻した新寝具をベッドに取り付ける。
往復に三十分、ベッドメイキングに五分を要したが、昨日今日とズタボロだった俺からしてみれば、信じがたいぐらいの好タイム。その代償として、定時退社したはずの小鹿がまた四肢に出社してきた。しかも今度のは気概に溢れていて、なかなか帰ってくれなさそうだ。
「ふぅ~……いい感じだな。じゃ俺はちょっくらシャワーを浴びてくる」
「…………」
途中から真白は黙りこくって反論の一つもしなくなった。
そのおかげで取り替えるのもさほど苦労はせずにスムーズに行えた。
ただ静かすぎるのも、居心地がよろしくないというか違和感を覚える。
そこでピンときた。
天のお告げ、圧倒的な閃き。
(……そういうことか!? 無言になることで、反抗を表明していたってことか……)
惜しいな、だけど無意味だ。相手に気づかれないと、どんな行動さえも何の意味も持たない。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。
特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。
他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。




