第16話 暗殺者は同世代
本心をいうなら場所だけ教えるから、あとは一人で買いに行ってもらいたいとさえ思っている。だけどこの調子だと真白は左手を自由にしてくれそうにもないし、一人で買い物に行かせたら行かせたで本当に店内放送をすることになりかねない。ロケットパンチ的な感じで腕が取れて尚且つナビゲート機能とかも備わっていれば、こんなに悩むこともないのだろうに。人間をやめるしかないか。
「行かないの博希?」
「ああ行くよ。その店があるのは二階だから、エスカレーターで向かうぞ」
足元に再三注意を払いながらエスカレーターに乗った。いつもの乗りなれたエスカレーターのはずなのに、最初の一歩がなかなか踏み出せなかった。いつも一人だったこともあり、誰かと手をつないで乗ることがこんなに難しいとは思いもしなかった。
ただ降りる時は存外簡単だった。降りるタイミングはこっちで決めていいと判断を委ねられたからだ。そもそもの話、超人的な身体能力をもつ真白からしてみれば、乗り降りのタイミングを合わせることなど、赤子の手をひねるぐらいに造作もないことだった。
真白におんぶにだっこ状態ではあるが、それで上手いこと行くのであればそれでいいじゃないか。
そのことに気づいてからは手をつないでいても、難なく乗り降りできるようになった。定期的にわざとよろけた真白を抱き留めるイベントが発生したが、必要経費だと思い甘んじて受け入れた。
無事二階に到着したところで、エスカレーター横のベンチに座り小休止をとる。
ショッピングセンターにあるベンチを利用したのは、これが初めてだった。さっさと買い物をしてすぐに帰宅する。滞在時間が長ければ長いほど、余計な物を購入する可能性が高くなる。散財をしないために博希が編み出した生活の知恵。
そこで浮いたお金をまたエナドリにつぎ込み余剰分を貯金する。理想的なサイクルが完成したと自負している。
真白は首が取れないか心配するほど、キョロキョロしながら立ち並ぶ店舗を指差してはしゃいでいる。その無邪気な姿が幼い頃の自分に重なり懐かしくもあり微笑ましい。
幼い姿……小学生の頃の記憶と重なるって……なるほど。
「これ全部服を売ってるの?」
「この辺りにある店は全部そうだな。あっちが男物でこっちが女物を取り扱っている。で、俺たちが今から向かうのはあの店だ」
立ち並ぶ店舗の中でもひと際、艶やかな装飾が施されている。店先には真白と同世代の少女が楽しそうに談笑している。
真横にいるフードを被ったパーカー姿の少女と、彼女たちが同世代……? と頭の中にクエスチョンマークが浮かび上がる。
「……てことは私の服? 博希の服を買いに来たんじゃないの?」
「えっ……おおぅ、一応スーツをもう一着買おうかなとは思っているけど、まずはおまえの服を買うのが先だ」
「それって私が袖を破っちゃったから?」
「今週クリーニングに出す予定だったし、別に真白が気にする必要なんてないぞ。さてと、あの子らも店から離れていったことだし、そろそろ行くか?」
「……うん」
ベンチから腰を上げ目的の店まで残り数メートルの距離まで移動した時、十数メートル離れた対面の店から鋭い視線がビシビシと突き刺さるのを感じた。
この視線の先にいる相手が、手をつないで来たくなかった理由。スーツを購入するために立ち寄らなければならないのだが、場合によっては次回に持ち越しで帰宅するのもありだ。
(ここで逃げ出したら後で絶対に殺される……)
真白がその視線に気づいていないわけもなく「知り合い?」と小声で訊いてきた。こちらも小声で「いつもスーツを買っているとこの店長さん」と返しておいた。
突き刺さる視線を背に受けながら、先ほど少女たちが集まっていた店に入る。
「辰爾~ちょっとこの子の服を何着か見繕ってくれないか。予算はそうだな、五万ぐらいで頼む」
入店すると店長が衣服をたたみ直しているところだった。
「いらっしゃい……あらん……? あらあら博希じゃないの! ここに来るなんて珍しいこともあるものね~。し・か・も女の子を連れて来るなんて♪」
辰爾は軽口を叩き締めに投げキッスをかましてきたので、右手で払いのける仕草で応える。
「おい、俺と話す時は普通にしろって言ったよな? ほら見てみろ、おまえの言動に驚いて硬直しているだろ……」
指摘するやいなや辰爾はセットした髪をかきむしり口調を変える。
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