第15話 グラッセ大御門
「真白……フード被らなくていいのか? 顔がバレたらマズくないか? 服とかもそのままだし、特定されそうで不安なんだが」
「う~ん、ずっとこうだけど一度もバレたことない。それを言うならこの会話も危険」
「あ~確かにな。それじゃあの時はなんでフードを被ってたんだ?」
「師匠がフードを被れって言ったから、なんか目標者を殺る時は、そっちの方が暗殺者っぽいんだって」
「確かにそっちの方がロマンがあるのは解る」
「師匠も同じこと言ってた。博希と師匠、思想が似ている不思議」
暗殺関連の話は本職の彼女がそう言うからには安心していいはずなのに、なぜか道行く人々と目がよく合ってしまう。ただ街中を歩くだけで、こんなに視線が交わることなどあり得ない。
明らかにおかしい……暗殺者だとバレていないのだとすれば、こんなにジロジロと見られる理由はなんだ。よくよく観察してみると視線が微妙にズレている。
「ああ、そういうことか」
彼らは俺じゃなくて、その隣を見ていた。
太陽の光によって煌めく銀髪をなびかせて歩く美少女がいれば、誰だって気になるのは当たり前か。朝一で彼らと同じ反応をしてしまった本人がそう思うのだから間違いはない。たとえ動きが子供じみていたとしても、それを遥かに凌駕する魅力を彼女は持ち合わせている。
毎回これでは外に気軽に出歩くこともできなくなる。外出時はフードを被ってもらうしかないか。でも、それだと真白に不自由な思いをさせないだろうか。彼女が師匠と呼び尊敬する人がそこを指摘しなかったのも、そういう意味合いがあるかもしれないし、言うべきか言わざるべきか悩む。
「博希難しい顔してる。なにか考えごと?」
「いや何でもない……」
「なにもないって顔してない。私に隠しごと?」
真白はジロリと鋭い眼差しでこちらを見つめてきた。完全に獲物を見定めた猛禽類の眼をしている。喉元にナイフを突きつけられているような恐怖を覚える。これが俗にいう眼で殺すというやつか。
さすがにこの状態でショッピングは気まずいをとおり越して無謀だ。吐露してしまおう、こっちもその方が気が楽で済む。
「分かった。言うよ、白状するよ。そのだな、フードを被って欲しい……」
「……どゆこと?」
真白は口元に指を当ててそう返してきた。
いまいちピンときていないらしい。
あーだこーだ説明するよりも行動で示した方が早そうだ。正直、あのセリフを自分で解説するとか気恥ずかしくてやりたくない。もし嫌だったら真白のことだ、拒絶するに違いない。
物は試しだ、やってみるとしよう。
「いいから被れってのっ!」
博希は首を傾げて眉をひそめる真白にフードを強引に被せた。左手が封じられているため上体をひねり右手でフードを掴む。結構無理な姿勢で行ったこともあり、昨夜負傷した脇腹に鈍痛が走った。
「わわっ!? なにすんの博希! む、むむむ……もしかして俺だけにしか見せるなってやつ?」
「……だ、だとしたら何だよ?」
「なんでもない……フード被る」
「うん、頼む」
特に嫌がる様子もなく普通に被ってくれている。こっちの気にしすぎだったかもしれない。
腕を振ることもなくなり静かになった真白を連れて黙々と歩くこと六分、本日の目的地に到着した。
六階建ての大型ショッピングセンターで、出店している店舗数は三百を超える。スーパーから百均ショップ、洋服店に飲食店、フロアが全て大型書店と家電量販店、ゲームセンターに映画館まで完備している。
ここに来れば大抵の物は揃う。出店している店舗はどれも値段の割に質の良い商品のため奥様方から大好評。平日でも常に賑わっている町のランドマークであり、倉神町の住民にとっては無くてはならない場所。それがこの【グラッセ大御門】である。
大きなガラス扉を抜けた先は暖房が効いていて、上着を脱いで持ち歩いている人がちらほら見える。この内外による寒暖差で体調を崩す人もいそうだ。
「さてと、まずは一番時間がかかりそうな服から行こうか」
フロアガイドで場所を確認しながら真白に話しかける。
「迷子になりそう……」
「迷子になったら店内放送してやるから安心しろ」
「痛たたたたい、ごめん冗談だって。だから、無言で握り潰そうとするな」
「大袈裟。こうしてる限り迷子にならない」
真白は右腕を振りながらそう答えた。
連動してこちらの左腕も同様の動きをする。
「いやまあ確かに……」
博希は表情を曇らせる。この状態で服屋に向かうのが少々かなり嫌だった。
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