第14話 夫婦オア父娘
「納得いかない。私の入力にミスはなかった。納得いかない」
隣を歩く真白は小声でずっと愚痴をこぼし続けていた。
手に汗握る激闘は博希に軍配が上がった。戦績は27対3と圧勝だった。
「そんなに不貞腐れるなよ……やろうって言ったのはそっちだろ?」
「そうだけど、納得いかない」
家を出てからずっとこの調子である。あれほど息まいていたのに、いざ蓋を開けてみればこの大敗。
あーなってしまうのも分からなくもない。負けた原因の大半がゲーム側にあるのだから、余計にそう思うのも仕方ない。彼女の高速入力にゲームがついていけなかった。いくらインプットが完璧だとしても、それが正しくアウトプットできなければ何の意味もない。
だが、それでも真白にもまだ勝てる可能性があった。マニュアルという誇りを捨てて、オートで戦っていれば結果は違っていたことだろう。オートではボタン一つで技が出る。そのまま押しっぱなしにすると、状況に合わせて自動で最適なコンボを行う。誤操作しない限り、確実に技は発動するしコンボも確実に成功する。
真白の敗因は、オートを選ばずにマニュアルを選んだことだ。
暗殺者として磨き上げた技量と技術による自負が邪魔をした。たとえそれがゲームだとしても、その力があればオートなどに頼らなくても勝てると踏んでいた。が、結局はこのざまである。
真白の思惑とは反対に博希は内心焦っていた。なぜなら彼女は、このゲームを触ったのが今朝が初めてだった。ふらりと立ち寄ったゲーセンで他人がやっているのをチラッと見ただけで、チュートリアルもせずに操作方法をマスターした。
彼女がゲームにあわせて入力速度を落としていたなら、勝敗は変わっていたことだろう。なぜなら三敗の中身は連敗。しかも残りの三試合、全て1ラウンドも取れずにストレート負け。完膚なきまでにボロ負けだった。
「そろそろ機嫌直せよ。一応、初デートなんだしさ?」
「むぅ~、じゃあ手つないで」
「手をつなぐのはハードル高くないか? 日曜日だし人多いし」
「むぅ~~~~~~」
頬を膨らませて反抗の意思表示をしているが、今朝とは異なり眼差しは穏やかそのもの。あの心臓を握り潰されるような圧を一切感じない。
今朝のが鬼神だとするなら、いま隣にいるのは小鬼といったぐらいに怖くない。子供が拗ねてむくれている、そんな印象を受ける。だからこそ、このあざとい不服申し立てを受けざるをえない。
どうであれ圧倒的に利のある対決で、大人げもなく勝利した。その後ろめたさやオムライスを作ってくれた礼も兼ねて、真白の願いを聞き入れることにした。
「はぁ……分かった、分かりました。ほら真白」
「手袋越しは却下」
「さいですか……これでいいか?」
手袋を外し真白に手を差し出すが、真白はその手を眺めるだけ一切つなごうとしない。
防具を失ったことで朝風に手がさらされて、どんどん体温が奪われていく。
「早くしろよ、寒いんだよ」
催促すると真白は「タイムアップか」と先のゲーム用語を使いポケットから手を出した。
「博希~?」
「なんだ?」
「呼んでみただけぇ~♪」
つながった手を見ては締まりのない笑みを浮かべている。真白が喜んでくれたのであれば、こちらとしても膝を屈した甲斐があったというもの。
また双方の指を交互にからませる、通称『恋人つなぎ』をしているわけだが、こっちに関しては特に気恥ずかしさは感じない。
(そら……これじゃあな……)
腕をぶらんぶらんと振り回しながら歩いていると夫婦というよりも、休日に父と娘が仲良くお出かけしている。または年の離れた兄妹が――以下同文。
強制的な運動をしたことで、ポカポカと体が温まってきた。じんわりと手汗までかき始めているのだが、真白は手を緩めそうにない。こっちが緩めようとすると逃がすまいと強く握ってくる。骨がミシミシと降参の合図を知らせてくるが、現状逃れる術はなさそうだ。
真白の機嫌が戻ったのは非常に喜ばしいのだけども、少々戻りすぎたといいますか、振り幅が凄まじいことになっている。機嫌が悪いままよりかは断然マシだけど、このままだと指と肩の関節がプラモのようにポロっと外れてしまいそうだ。
逃げられないのなら、痛みを神経をよそに向かわせるしかない。ということで、喜びはしゃぐ真白に外出時からずっと気になっていたことを尋ねて、気を逸らすことにした。
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