第13話 暗殺者は経験者
大食漢ではないが、さすがにこの量だと全然食い足りない。中途半端な量を食べたことで余計に胃が刺激されて空腹を感じる。だからといって、ここでもっと食べたいと言うのはさすがに恥ずかしい。二人で食べようと言っておきながら、手のひらクルクルすぎる。
それに嬉しそうに腕に抱き着き隣でテレビを眺める彼女を立たせるのも気が引ける。昼飯を十二分に満喫するためにも、朝飯は腹三割ぐらいで我慢しておこう。考えたらまた腹が減ってきた。
今日の昼飯どころか圧倒的に食材が不足している。あれでは料理を作ってもらおうとしても物理的に不可能だ。食材もだけど、その前に同棲することを考えると真白の食器や日用品も必要だ。
四次元パーカーに色々と収納しているとは思うけど、それでも必要最低限の物しか持っていないはずだ。これから一緒に暮らす以上、ここが自分の家だと認識して住みやすい環境にしてあげるべきだ。
まあ今朝の感じからしてもう既に環境に適応してそうではある。
今日の予定はショッピングセンターで一式揃えてスーパーで食材購入。
諸々の資金はエナドリ貯金で蓄えた分で賄うとしよう。
説明しよう。エナドリ貯金とは、セールなどでエナドリが定価よりも安く購入できた際に、その余剰分も使ったていにすることで、心を痛めることなく貯金できる自己流節約術である。たぶん十万円ぐらいは貯まっているはずだ。
そうと決まれば、早速真白に相談してすり合わせをするとしよう。
「なあ真白、今日の予定なんだけどさ。買い物に行かないか?」
「博希が行くならついてく」
「決まりだな。ショッピングセンターに行こうと思う。開店時刻は九時半だから、それまで何かで時間潰すか?」
「じゃーあれしよ!」
真白はテレビ台に置かれたゲーム機を指差した。
「番組も面白いのやってないし、ありだな」
このゲーム機の名前はプレイリチュアル5。据置き型のゲーム機で4K出力FPS60を維持するプレイリチュアルシリーズ最新機。
退職した同僚が昔泊りがけで遊びに来たことがある。酒やつまみを買ってくるのかと思ったら、まさかのゲーム機を担いできた。しかも中古ではなくて新品。
酒を飲みながら夜通しゲームをして朝を迎えて解散となった時、同僚は重たいから持って帰りたくないと言い出した。結局最後まで持って帰ることはなかった。その後も何度か機会はあったが、その度に何やら言い訳をして持ち帰ろうとはしなかった。
それからずっとこのゲーム機はテレビ台に鎮座している。ただ最近はゲームをする気力も沸かないため起動どころかコントローラーも触っていない。アップデートにどれほどかかるのかだけが少し気掛かりだ。
充電が切れたコントローラーをそれぞれケーブルをつなげてゲーム機に挿し込む。コントローラーが点滅したのを確認し中心のロゴマークを押す。起動画面を表示されるとすぐにアップデートが開始される。
「アップデート終了まで五分弱か……なあ真白、対戦か協力どっちにする?」
「対戦一択!」
「対戦ならこれだな。ストリートマーセナリー6」
一時ハマりまくってレジェンドになったこともあった。あの時はゲームをするために睡眠時間を削りに削った。思い返せばよくあれでミスなく仕事をこなしていたものだ。
もう一年以上も前か、かなり腕も鈍っていることだろう。ゲーム自体もアップデートで内容も変わってそうだし、初心者とはいかずともそれに近いレベルにまでは落ちてそうだ。
本体のアップデートが終了し再起動すると、次はストリートマーセナリー6のアップデートが開始された。
「……こっちは二分か。このマンションの回線が速くて助かった」
「ほい、真白。2コンな」
ウズウズしながらパーセントを見つめる真白にコントローラーを渡す。
「博希まだ~?」
「あと二十秒だ。我慢しろ」
真白はコントローラーのボタンやスティックをこれまたリズムゲーのごとく触りまくっていた。リモコンの時は片手で親指一本のみだったが、その動作を両手で行うと手首よりも先が完全に別の生き物のように見えた。
しかも、ただ動かしていただけではなく、所々見覚えのある指の動きをしていた。必殺技を出すために必要なコマンド入力。
「……真白、おまえ経験者だな。それもマニュアルの」
「黙秘する……」
雰囲気がクールな暗殺者モードに切り替わる。
そして、はじめての共同作業の開始を告げるゴングが鳴り響くのであった。
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