4/11 面会2
4/11
13時から面会へ。相変わらず酸素マスクを外したがるらしく、手にミトンをはめられていた。これは仕方がない。酸素マスクを止めてしまえば苦しくなる。それにマスクをしたままでも話は普通にできる。マスクを固定する紐が嫌なのか、顔に当たるのが嫌なのか。
誰かいればミトンが無くても対応できるので、ミトンを外す。途端にマスクを外そうとする(笑)。
仕方がないので88%を下回るまでは口元あたりに先端が来るようにずらすようにすると、少し機嫌が直るが、どうにも完全に外したいらしい。
気をそらそうと、今日、ご近所の空き地に新築工事が始まるとあいさつに来てくれたこと、さらに解体工事と思われた他のご近所さんは、どうやら建物はリフォームするらしい事など、ご近所の話題を振ると、にっこりと笑っていた。面白い話だったようだ。
さらに私の弾いたピアノ動画を聞かせる。バッハにはあまり反応を示さなかったが、チャルダッシュ風津軽海峡冬景色には難色を示し、「どう? 上手だった?」と聞いたら、大きく首を横に振りやがった。昔から私の演奏が嫌いな人だが、本当に失礼な人だ。
看護師から、夜間の付き添いの許可が出る。付き添ってもいいしなくて大丈夫、とのことだったが、家で心配しながら寝ているよりは、そばにいた方が安心だと、私が付き添う事にする。
簡易ベッドを入れてもらい、当然食事は出ないので(母の分もすでに出ないが)、母に声を掛けて17時に一度兄と帰宅。簡易ベッドは腰が痛くなるよと言う看護士さんのアドバイスから(笑)、母も使っていた長座布団を持って行くことにする。夕飯を取り、ペットボトルと夜食のケーキを持って、18時にまた兄と病室へ。
多少、口呼吸をしているが、またマスクを外している以外は割としっかりしている。
この日の会話では、母が「(私)の将来が心配」としきりに言っていることが判明する。何の事だ? と思っていると、兄が「もしかして、せん妄の中の話では?」と言うので、成程、「毒殺犯として新聞にも載った犯罪者の娘(私)」を心配しての事か! と思わず「まだそう思っているの? しつこい!」と笑ってしまった。
兄も横から「毒なんて入れていないし、新聞にも載っていない」と全否定してくれた。私もやってないと言いつつ「心配はいらない。本職と犬と楽しく暮らしていくから」と耳元で言うと、ようやくうなずいてくれたが、納得はしていないようだ。
この日の妄想はどうやら魚が泳いでいるらしい。何度も目が空中をとらえ動くので、人? 犬? と聞いていくと魚で頷く。大きな魚が1匹、泳いでいるらしい。見てみたいものだ。
酸素マスクは付けては外す、ずらすのとの戦いだったが、これも妄想が続いていて毒ガス攻撃をされているのではと思っているのでは? と。それならば外したがる理由もわかるが、マスクをしている事自体が不快なのかもしれない。外したい? には うん、と答えが返ってくるが、これをしていないと苦しさが増す、ここは病院で、これは酸素だから、危険はないからやっておいて、にも うん、と答えが返ってくるから、やはりよくわからない。
それでも頷いた直後には外すのでどうしようもない。
夜になって鼻カニューレというのの存在を知る。鼻の下に細いチューブを入れて鼻の孔に直接酸素を流すアレだ。しかしマスクほどの効果が無い。だが本人が嫌がるよりはマシだろう。明日になったら先生に相談してみよう。残り時間が短いなら、本人の意志を尊重したほうが良い。
22時過ぎまで兄もいたが、割と元気だし、数値も悪くないからと兄だけ帰宅することに。
兄が帰宅したとたんに私とマスク争奪戦が始まってしまう。もう86%まで飽和度落ちても見逃したが、さすがにそれ以下は命にかかわってくる。明日、先生に相談して外してもらおう。でも今日だけ、今夜だけ我慢してほしい、というとうん、とうなずくのに、すぐに外し、その力が物凄い。私が力負けするほどに全力でマスクを拒否する。仕方がなく看護士さんを呼んで相談すると、夜間だけのミトン使用となる。
ちなみに私がミトンを付けさせようとすると、こちらも全力で阻止されたが、看護士さん相手だと大人しくミトンをやらせる。両手にミトンを被され、諦めたように見えたが、看護士さんが部屋を出たとたんに両手で何とかミトンを取ろうと格闘し始める。
「こんな思いをするくらいなら死んだ方がマシだ!」「これいやだ」とハッキリと口にする。
近くへ行って同じ説明をすると、うんうん、とうなずくも、すぐに格闘し始める。これは私が近くにいては絶対にやめないなと思ったので、少し離れている簡易ベッドに座り、そっと様子を見る。
結局01時過ぎまで母は外せないミトンと格闘を繰り広げていた。これだけ元気なら、数値も悪くないし、帰っても大丈夫かもしれないと思うが、せっかくベッドを用意してもらったので、お泊りを楽しもうと決意して、横になる。
ずっと母はミトンと格闘していたが、その頃に看護士が回ってきて、体位を変え、布団をかけて両手を布団の中に入れると、諦めたようだった。
それでも唸り声をあげるので、どこか苦しいのかを確かめると、布団が重いという。上半身だけ布団をはいだが、両手を動かすことはなかった。
「明日には酸素マスク外してもらうよ。約束する。だから、今夜だけ頑張って」と声を掛けると、しっかりとした視線で何度もうなずいた。
実際にもう手を動かさなかったので、ミトンを外すべきか、しかし飽和度94%だし、夜だし、少しでも寝てもらえたらと何度も明日ね、寝て起きたら頼むからね、と声を掛けて簡易ベッドに横になった。
部屋には母の呼吸音が響く。肩で息をし始めている。それは看護士さんも確認している。鼻カニューレも看護士さんもそう言う手があると言っていた。朝になったら兄と相談して鼻カニューレにしてもらうか、思い切って外すか。何にせよ夜が明けたらだ。
ベッドサイドモニターの数値が私からも見えるようにして、ちらちらと様子を見ながらスマホを操作していた。




