18:そしてメタボが加速する
カルザさんが結婚することになった。ハロルドさんから突然そんな感じのことを言われた。厳密にはハロルドさんらしく小難しい感じで伝えられたのだけど、結婚とはおめでたいじゃないですか。
私も王都にいた頃は頻繁にお菓子をいただいたり、話し相手になっていただいたりしていたので大変お世話になった人である。懐かしいなあ。元気にしているかな。
結婚するってことは元気なんだろうけど。
「それでなんの御用ですか?」
「ノックス公爵は結婚を機に、近衛騎士の任を解かれる。私は団長には騎士団でかなり世話になった、そこでなにか、こう……」
「式の取締役として私が任命されたのですわ!」
はい!?
話は思ったより簡単だった。どうやら近衛騎士団に所属する条件として、独身であることが必須なのだそう。だからカルザさんが騎士さんでなくなるわけではない。
ユリアさんは長年カルザさんにお世話になったので、なにかお返しがしたいと思って花嫁さんに相談したところ、ウエディングプランナーを任されたのだそうだ。
意味がわからない。
ついでにユリアさんはウエディングプランナーを任されたので、カルザさんにお世話になったという騎士団の方々にウェイターを任せてみたいなどと言っていた。要は地球で言うところのドッキリをしようということか。
「奇抜で斬新で、もう一生忘れられないような式にしたいのです。なにかいい案はありませんか?」
「私もカルザさんにはお世話になったので、全面的に協力しますよ。そうですね……」
そもそもこちらに来てから一度も冠婚葬祭に参加したことがない。
「一般的な結婚式はどんな感じなのですか?」
「式を行うのは教会です。そのあと花婿の実家で盛大な披露宴を執り行います」
一番簡単なのは、一般的な日本での式を融合することだ。でもそれだと面白味がない。
「私のいた世界ですと、まあ国によって宗教が異なるので式も様々です。私の国だと伝統的なのはこんな感じの衣装で、最近では西洋化でこちらと似たような衣装も増えていますね。むしろそちらのほうが主流です」
大して上手くもない絵を交えて説明する。
「ドレスもヴェールも特に規定はないと思います。それから披露宴ではお色直しといって、カラフルなドレスに着替えることもありますよ。これは披露宴の話ですけど。私の国では宗教に対して寛容だったので色々な文化を組み合わせることもしばしば」
ドレスと角隠しの両方に着替えてそれぞれ写真撮影するなんて、わりとよく聞く話ではないだろうか。ウエディングドレスを着て、神社で式を挙げる人も見たことがある。
「披露宴はマリナ様の世界のものが面白そうですわね。そちらのほうがドッキリ味が増します」
やっぱりドッキリなんかい。
「披露宴は内装も豪華ですし、それから何段ものケーキとか、シャンパンタワーとか……。この時期なら庭ですることもできそうですね」
想像も入り混じっている気がするけれど、もう気にしない。
「ハロルドさんは何かしたいことはありますか?」
「私は型にはまった考え方しかできないんだ」
「それでしたら披露宴で知人代表の挨拶をすればいいと思います」
「そうか」
「カルザさんが感動のあまり泣いちゃうような内容を考えてくださいね」
「それはとっても素敵な提案ですこと!」
「……善処する」
花嫁さんが共謀者ということで、話はスルスル進む。こちらも指輪の交換はあるそうだ。それから教会の書類への署名。ブーケトスやフラワーシャワーは無いようなので、取り入れられることになった。そしてウエディングドレスは私も意見をすることに。できるだけ珍しいデザインにしたいらしい。ドレスにそこまで興味を抱いたことなんて無いんだけどなあ。プイキュアの衣装みたいにすればいいのか?
まあ式の計画はそんな感じで終了。あとはユリアさんが全部手配しておいてくれるらしい。さっすが。
問題は披露宴だ。立食形式で、地球の料理を取り入れることが決まった。私、料理は全然なんだけどなあ。見た目と味と、分かる限りの材料でどうにかするらしい。シェフのみなさん申し訳無さ過ぎる。それから特大ケーキは採用。お色直しと知人代表スピーチも採用。お色直しで着るドレスも私が意見しなくてはいけないことになった。
「誰もが見惚れるドレスのデザインって何か思いつきますか?」
「じゃあ私の国の伝統衣装をモチーフにしたドレスとかですかね? 珍しいので注目されること間違いないと思います」
合わせと帯を採用して、袖は肘のあたりから膨らむように。肩は出たほうがいいかな。てきとうに絵を描いて渡しておく。高名なデザイナー呼ぶって、ユリアさん立場乱用してないですよね?
「細い装飾は監修していただくことになると思いますわよ」
「分かりました……」
花嫁さん、ユリアさんに丸投げはやばいですよ。色んな意味で絶対に忘れない結婚式アンド披露宴間違いなしですよ。
式は半年後らしいけど、それでも早い方だなんてすごい。ものづくりは一旦置いておいて、私も衣装や披露宴の装飾について一緒に考える。出し物としてウェイターに扮した騎士団のみなさんによる剣舞や、夜に花火を上げるという案を出した。
花火は炎色反応を利用する。仕組みはよくわからないので実験が必要になるだろう。緑色の銅は確実に手に入るとして、赤色のリチウムや黄色のナトリウム、紫のカリウムはどうしようか。自然界にどういう状態で存在しているかなんて知らないぞ。
食事は肉まんを提案した。小麦粉で作った皮に、ひき肉を詰めるとしか説明できなかった。米がないから日本食は難しいんだよね。フライドポテトやハンバーグも出来る限り詳しく説明。油で揚げる料理はまだないらしく、他にはないのかとしつこく聞かれた。その結果とんかつとからあげが唯一日本食らしい食べ物となった。だって他に思いつかないんだもん。
それにしても見事に揚げ物ばっかりだな。
シェフのみなさんが毎日試作と称して揚げ物を作るので、食事が高カロリーだ。もう十分美味しいと思うんだけど。
「ですがマリナさん、これ革命的ですよ」
なぜか一緒に食卓を囲んでいるアルトさんが言った。
「煮る、焼く意外にも調理法があるなんて知りませんでした」
「揚げ物を食べすぎると肥満の原因になりますよ」
確かにこっちの人は、蒸す揚げるが無いよな。蒸すものと言えば、蒸しパンもある。プリンも蒸すよね? 新たな食文化が誕生したりして。
「食卓にも改革を起こしてしまうなんて、やはり天才ですよね」
「違います」
板前さんたちみたいに、人参をちょうちょの形に切る技術があれば改革がおきるかもしれないけどさ。
あれなんていう名前だっけ。
「そうだ、飾り切りだ」
「飾り切り?」
「私の国には食材を花や蝶の形に切ることができる人たちがいるんです」
「それは素敵ですわね」
「包丁の形が違うからできないと思いますよ。刃が片刃でないと」
関係あるかはわからないけれどね。ただそれを聞いたユリアさんがなにやら乗り気なので、シェフのみなさんのお仕事が増えることが確定した。それから金物屋さんにも片刃の包丁の注文が行くのだろう。変な注文の原因を作ってしまったので申し訳無さ過ぎる。
「こちらの伝統も守られてますよね?」
「宣誓と署名さえしっかりしていれば問題ないのです!」
雑かった。
逆にこの雑さを利用すれば、なにかできそうなんだよなあ。
「式と披露宴会場内の簡単な装飾は孤児院に委託するのはどうですか?」
「簡単な装飾?」
ユリアさんが必要なものリストに挙げていたものを思い出す。
「輪っかの飾りとボトルキープの造花は指導者がいれば作れるのではないでしょうか」
「ああ、寄付だけでは自立できませんからね。就職支援にも繋がるんじゃないでしょうか、殿下?」
「それでしたら他にも委託できそうなことがないか、あとでリストを確認しておきますわ」
孤児院への指導は、一番暇な私が赴くことになった。試作品の蒸しパンやプリンを持っていったので人気ものになったのだけれど、なんだか複雑だ。なにせ餌付けしてるような気になるもので。




