14:ゴミが金になるってマジ?
マエバシを考案(?)してから二週間が経った。手回し扇風機はまだ頭の中だ。初めの一週間は、定規の改良に力を入れていた。例えば傾斜をつけてみたり、十ずつのめもりに綺麗に色を入れる方法を考えてみたり、だ。
次の一週間では、一番使いやすいと評判だったものを量産していた。単に欲しいという声が多かったのと、日頃のお礼としてなにかできないかと考えていたからだ。定規は返礼品として丁度良かった。言葉の勉強もするから、製作にそう多く時間は取れない。それでも一日三本、一週間で二十一本作れた。ひとまず希望者に一本ずつ配ろうと募ってみると、かなりの人数が希望したので抽選会を開いた。騎士さんまで欲しがるとか想定外です。
ちなみに多くの方々がくじ引きに感動していた。
その後屋敷内で、やたらとものの長さを測る人の姿が見受けられたのは、言うまでもない。
もちろんお礼なのに不公平なのはいけないのでハズレの人には後日再産するから、と言って引換券を渡しておいた。あと二回くらい抽選会を開催しないといけないな。定規を希望しなかった人へのお礼もなにか考えなくてはいけない。
というわけで手回し扇風機の図面は今日から起こそうと思っているけれど、手回し扇風機というのは絡繰りである。絡繰りには歯車が付き物である。歯車を作るとなるとものすごい手間がかかる。既製品が欲しいところだな。
手回しというところにこだわりすぎている気がして、少し考え直してみる。糸をひくとプロペラが回る仕組みにするとどうだろう。いや、いっそのことプロペラの中心から棒を伸ばしてみるか。うーん、ハンドルを一度回すだけで、プロペラが数回回転するのが一番望ましいんだよな。
結局案がまとまらないので定規作りを始める。庭に出て木材を切っていると、手合わせをしていた騎士さんたちが様子を見に来た。
「お手伝いすることはありますか」
「簡単な作業ばかりなので大丈夫です」
丁重にお断りしておいた。今日の異世界人お守り担当はハロルドさんだ。かなり偉いポジションにいるっぽいので、ハロルドさんが一睨みすれば騎士さんたちは散っていく。
そうそう、私は自分の花壇も手に入れたのだ。そんなこんなで、木材の切れ端は細かくして花壇に撒いている。まだ何も植えていないけれど、この世界の植物に詳しくなるきっかけは手に入れたわけだ。
花壇のそばで、適当な大きさに切った木材にヤスリをかける。これはユリアさんがくれたものだ。
このヤスリは金属製で、切れなくなったら何度も目を立てなおして使う。鍛冶屋にしかなさそうだが、一体どこからどのように入手したのか。カンナが無いのは本当に痛い。
ひたすら木材にヤスリを掛けていると、 珍しくハロルドさんが質問をしてきた。
「あなたの発想……知識は非常に奥深い。我が国の防衛に役立つものはないか?」
「防衛?」
難しい単語を使われると理解できないのは、ハロルドさんも知っているはずなのだけど。
「騎士が有利に戦えるような発明と言えば分かるだろうか」
「『火薬』とか『爆弾』ですか?」
「なんだそれは?」
要は国の守りを固めようとしているんだよな。火薬が登場すれば剣で戦う機会など、ほとんどなくなる。
「えーっと、火をつけるとはじけて人が死んだり傷ついたりします」
厳密には爆発で人が亡くなるのは、吹き飛ばされるからではない。爆発した瞬間、気圧が一気に下がって肺の空気が根こそぎ奪われるのだ。だから爆弾で亡くなった人は爆風で丸裸になり、目立つ怪我もしていない。そういう話を聞いたことがある。地雷だったかな、どちらにせよ怖ろしいことだと思う。
「作れるか?」
「材料が必要です。種類がいくつかあるのですけど、ここでは全部はできないかも」
私が知っているのはテルミットと黒鉛火薬、それから普通の火薬。
テルミット反応はとても有名だと思う。アルミニウムで金属酸化物を還元する、なんて言うと難しく聞こえるかもしれないけれど、まあ還元のエネルギーで爆発と凄い光を発するアレだ。高校の化学の授業でやった。
金属酸化物は酸化鉄が一般的だが、酸化銅になると威力が桁違いに跳ね上がる。
これは酸化鉄と酸化銅のどちらを使うにせよアルミニウムが必要なので、無理かもしれない。アルミニウムは酸化しやすい。還元するには大量の電気を必要とする。電気の缶詰と呼ばれるほどだ。ここの科学技術では手に入れるのは無理だろう。
もし学校の実験で使ったマグネシウムリボンが酸化していたなら話は別だ。
それから熱と光と音は発するけれど殺傷能力があるのかはわからない。学校の授業では少量での実験だったからだ。高熱を出すことは分かっているけれど、広範囲でなければ武器としては使えないのではないかな。まあ保留で。
次の黒鉛火薬は、これも似たようなのを学校の授業で作った。
木炭をすり鉢ですり潰し、硫黄を加えて混合する。 次にその混合物を、内側が皮張りの容器に移して硝酸カリウムを加える。この時に水を加えて水分量が、パサパサより少し多いくらいになるようにする。詳しい値は忘れたし、再現できないだろう。それを樫の木の棒でよくすり潰す。これによって密度が大きく、燃焼性が均一になり薬勢がよくなる、らしい。
これを綿布で包んで板に挟み、圧力をかけて比重を高める。それを適当に破砕する。この時に水分が一定以下にならないように注意する。 最後に六十度以下の温風で水分がほぼ完全に飛ぶまでゆっくりと乾燥させる。
少し手間はかかるが、まあ確実だろう。
普通に火薬が作りたかったら、硫黄や黒鉛と硝石を混合したらいい。それで火をつければ爆発する。
この硝石というやつを作るのに、一番有効なのはハーバー・ボッシュ法だがこれは無理だ。水素と窒素を超臨界流体状態で反応させなくてはいけない。
というわけで、歴史モノの転生小説にありがちな、糞尿から硝石畑を作るというのをやることになるだろう。ハーバー・ボッシュ法では空気に含まれている窒素を使っているが、こちらは糞尿に含まれている窒素を使う。硝石の生成には窒素が欠かせない。
その窒素をどうするかというと、空気や水で分解してアンモニアにする。このあたりはバクテリアを使えば、何もしなくてもすさまじい量のアンモニアが発生する。そのアンモニアは土中細菌によって硝石になる。
さらに土の中には、植物由来の分解物も大量に混ざり込んでいる。植物は極めてカリウムが豊富だ。よって植物が土に還るとき、土中にカリウムイオンが放出される。カリウムイオンが豊富な場所に硝酸イオンがあると、反応して硝酸カリウムとなる。硝酸カリウムは水の温度によって溶解度が大きく変化する性質を持つため、溶解度の問題に出てくるから聞いたことがある人も多いだろう。
これも火薬の原料となる。
硝石を作るならば、馬小屋で作るのがいいだろう。糞尿はいくらでも出るし、藁もある。
糞尿とてきとうに燃やした藁とを混合して、さらにそれを重ねて何層ものミルフィーユを作る。酸素が多いほうが、バクテリアや細菌の働きが活発になるからね。乾燥したところに露出した面を作れば、硝石が沸いてくる硝石畑ができあがるというわけだ。
テルミットはぜひとも紹介したかったけれど、アルミの説明が無理なので諦めた。硝石や糞尿はなんと言えばいいのかわからなかったので、絵を描いて説明する。
「そんな馬鹿な話があるか」
「金属をやるやつもありますけど、金属の名前、こちらでの呼び方がわからないので説明できません」
「それは惜しいことだな」
「これくらいなら私やりますよ」
ハロルドさんが目を剥いたのが分かった。
「正気なのか?」
「片手間にできるでしょう。どうせすることありませんし、できるのにも数カ月かかると聞きました。暇な私がやるのが一番いいです」
「まあ……確かにそれが本当ならばゼロから金が生まれるも同義だが……」
それというのは火薬のなんたるかと、火薬の燃料が糞尿から出来るところにかかっているのだろう。
大丈夫ですよハロルドさん、私も硝石畑はあまり信用してないんです。提案しといてこんなこと言えるわけないけど。だって本から得た知識であって、実際にやってみたわけじゃないし。
成果が出れば嬉しいだろうな。
ユリアさんはハロルドさんの説明に渋い顔をしていたけれど、どうにかお願いすれば許可してくれた。ついでにズボンも手に入れた。
私のタスクである言葉の勉強、定規の生産、手回し扇風機の研究に、硝石畑作りが加わった。




