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「え……」
私が本物?
しかも国に懸けて誓う?
名前を懸けて誓う、であれば私も知っている。
自分のもつ名誉や誇りを担保に、自らの発言を保証する行為だ。
しかしその誓いを破った時の代償は大きいと聞く。
けれど聞き間違いでなければ、ハルは今国の名に懸けて誓うと言った。
それはあの宣言に国の名誉を、誇りを懸けるということ。
でもいくらハルが帝国の第二皇子であっても、許可なく勝手に国の名を懸けることなどできやしない。
それこそ皇帝陛下の許可が必要だ。
それにもかかわらず、ハルはなんの躊躇いもなく誓った。
ならばこの件はすでに皇帝陛下の預かり知るところと考えるのが妥当だ。
要するにハルの宣言は、私が本物の『祝福の一族』であることを皇帝陛下が認めたのと同義だということ。
(私が本物……?)
偽物だと断罪された私が、実は本物であるという事実。
この事実に戸惑わない方が無理だろう。
ハルを信じると決めた私ですら、戸惑いを隠せないでいるのだ。
「えっ!?」
「は?」
「なんですって?」
「……」
当然王太子殿下も、公爵も、リリアンも驚きから声をあげた。
唯一国王だけは黙ったまま。
会場中が戸惑の色に染っている。
しかしその中でいち早く我に返った王太子殿下が、反論の言葉を口にした。
「な、何を言っているのですか!?この女は間違いなく偽物です!テオハルト殿下だってご存じでしょう?現在の一族には嫡男しか子がいないことを!」
王太子殿下の言葉にハッとした公爵は急ぎ言葉を続ける。
「そ、そうです!私の部下がわざわざ帝国まで出向いて調べたのですよ?間違いなくその娘は偽物です!」
「テオハルト殿、何か勘違いをしているのではないか?それともそこの娘に何か弱みでも握られているのか?」
王太子殿下、公爵と続き、国王陛下も口を開く。
「たしかに……」
「どっちが本当なんだ?」
「悪女ならそれくらいやりかねないかも」
皇子は国の名を懸けて誓った。
けれど王太子たちの話には整合性がある。
会場が次第に騒がしくなっていく。
皇子と王太子、どちらの言葉が正しいのか。
しかしそんな空気を変えたのは、やはり彼だった。
「……くくく」
「テオハルト殿下……?」
「あははは!あーおかしい」
突如笑いだしたハルに、王太子殿下が食って掛かる。
「なっ……!何がおかしいというのですか!?」
けれどハルは、それすらもおかしいと言わんばかりに言葉を返す。
「なぁ、王太子殿。貴殿は私を誰だと思っているんだ?」
「っ……そ、れはもちろん、ランカ帝国の」
「ああ、そうだ。私はランカ帝国の第二皇子。その私が何も知らないとでも?」
「そ、それは……」
王太子殿下は顔をひきつりながらも、なんとか笑顔を保とうと必死だ。
けれどハルはそんな王太子殿下の顔など、気にする様子はない。
「『祝福の一族』たるマリアント公爵家に、子が一人しかいないことは当然私も知っている」
「っ、では!」
よかった。そう王太子殿下は思ったに違いない。
ホッとしたのか、強ばっていた表情が緩んでいる。
しかし次のハルの言葉。
その言葉に、再び王太子殿下の表情は変わることになる。




