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「当時の私は二つの国の友好を守るため、この娘を養子にするしかありませんでした。けれどいくら待っても迎えなど来ない……そこでようやく私はこの娘に騙されたことに気づいたのです」
「公爵は国を想うが故、己と己の家族を犠牲にし、この女を養子にするしかなかったのだ」
「しかしこの娘が偽物だとはっきりと分かった以上、許すことはできません!よってこの場でミレイア・ノスタルクとの養子縁組を解消する!これでお前はただの卑しい孤児だ!」
公爵はどこかから取り出した書類を掲げ宣言した。
離れていてよく見えないが、きっとこの日のために、事前に用意しておいた養子縁組解消の書類だろう。
「私の婚約者が孤児などであってはならない!ミレイア・ノスタルク、いや大罪人ミレイア!お前との婚約を破棄する!そして新たにリリアン・ノスタルク公爵令嬢と婚約を結ぶ!」
「ネスト様ぁ~」
養子縁組の解消に婚約破棄。
予想していた未来が、こうして今現実のものとなった。
王太子殿下とリリアン、そしてノスタルク公爵が私をニヤニヤと見ている。
きっとあの人たちは、私の絶望する顔を見れるとでも期待しているのだろう。
でも残念ながら、私はその期待には応えられない。
たしかに驚いたし、言いたいことだってある。
けれど途中から、すべてがどうでもよくなってしまった。
私が何を言ったってどうにもならない。
むしろ泣いて叫ぶほどに、あの人たちを喜ばせることになる。
もう疲れた。
ただテオハルト様にどう思われたか。それだけが気がかりだが、その答えを聞くことは叶わない。
「……」
「お前はことの重大さが分かっていないようだな?お前は帝国の貴族だと身分を偽ったのだ!これは帝国に対する侮辱でもある!」
なんの反応も示さない私に痺れを切らしたのか、王太子殿下が叫んだ。
「いいか?お前の犯した罪は王国と帝国の友好を壊そうとしたも同然だ!よってお前を地下牢へ生涯幽閉の刑に処する!処刑されないだけありがたいと思うんだな!」
そして王太子殿下一歩二歩と私に近寄り、最後に耳元でこう言った。
「俺とリリアンのために死ぬまで働いてくれよな」
(……そういうことね)
王太子殿下はこれまで私に仕事を押し付けてきていた。
めんどくさいというのもあるだろう。でも一番の理由は、王太子殿下に執務をこなすだけの能力がないから。
それはリリアンにも言えること。
優れているのは見た目だけで、頭は良くない。
勉強が大嫌いで、これまで何人もの家庭教師をクビにしてきた。
そんな二人が真面目に仕事をするか。
しない、いやできないと言う方が正しいだろう。
そこで思いついたのだ。
ちょうどいい存在である私を有効活用すればいいと。
国王も何も言わない。この件についてすでに了承済みなのだ。
婚約破棄をされ、家を追い出されると思っていた。
しかしそれはまだまだ甘い考えだったらしい。
国のために飼い殺しにされる。
それが私の運命のだったようだ。
「さぁ衛兵!この罪人を連れていけ!」
王太子殿下の命令と同時に、衛兵たちが私の周りを囲んだ。
「はっ!この状況でも謝罪のひとつすらしないなんてな。ああテオハルト殿下!王国と帝国の仲を引き裂こうとした罪人には厳しい罰を与えますので、どうぞご安心ください!」
衛兵たちの向こう、王太子殿下の声が聞こえた。
彼らはきっと帝国に少しでも恩を売りたかったのだろう。
小麦の輸入を帝国に頼っている以上、帝国との関係が盤石なものになれば怖いものなどない。そのためにテオハルト様が国賓として出席する、この卒業パーティーを断罪の場に選んだのだ。
この場にいるすべての人が、王太子殿下や公爵の言ったことを信じただろう。
私には何の発言も許されなかったが、どうせ発言したところで誰も信じてはくれない。
今までがそうであったように。
だって私は偽物だから。
偽物なんて誰からも必要になんてされな――
「待て」
短くも威厳に満ちた言葉。
騒がしかった会場が、嘘のように静まり返る。
今までこの場を支配していたのは王太子殿下。
けれど今のたったの一言で、その支配者が変わった。
それは誰なのか。
もちろんこの場において、そのようなことができる人物はただ一人しかいない。




