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本物の公爵令嬢  作者: Na20


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(ハル……)



 私はギュッとペンダントを握りしめた。



「聞こえないのか!さっさと出てこい!」



 名前を呼ばれた以上、前に出ないわけにはいかない。

 私は震える足をなんとか動かし、前へと進み出た。



「……お呼びでしょうか」


「遅い!」


「申し訳ございません」



 私にできることはただ頭を下げることだけ。

 でも王太子殿下がこれで納得しないことは分かっている。



「罪人のくせに偉そうな……ん?お前、そんな上等なドレスをどこで手に入れた?」


「……贈り物でいただきました」



 嘘は言っていない。けど誰からとは決して言えない。

 まだ婚約が維持されているこの状況で、名前を出せば迷惑がかかるのが目に見えている。



「贈り物だと?そんな嘘が通じると思っているのか?」


「いえ、嘘では」


「ええい!口答えするな!お前のようなやつに贈り物をするやつなんていないに決まっている!まさかお前、リリアンから盗んだのか?」


「私のドレスを盗むなんて……。家族はみんなお姉さまを信じていたのに……ひどいわ」



 このドレスはリリアンのものではない。

 それなのにこう言われてしまえば、まるで私が妹を妬みドレスを盗んだように思われるだろう。

 リリアンから嫌われているのは、もちろん知っていた。

 けれど私を罪人に仕立て上げたいほど嫌っていたなんて。



「このドレスはある高貴なお方からの贈り物で」


「はっ!言い訳はいい。誰がお前なんかにドレスを贈るというんだ!」


「ねぇネスト様。お姉さまは私のドレスを盗むほどなんですもの。妹としては信じたいのですが、もしかしたらお姉さまはネスト様という婚約者がいながら、他の男の人との関係もあったりするんじゃ……」


「なんだと?罪を犯すだけでなく不貞だと!?なんて女なんだ!」



 自分たちのことは棚に上げ、ずいぶんな言いようだ。

 それに話もずれてきている。

 どうしてそこまでして私を悪者にしたいのか、分からない。



「私は不貞などしておりません」


「ふん!罪人の言葉など信じられるか!この罪もしっかり追加しなくてはな!」



 私が何か言ったところで、王太子殿下は最初から聞き入れる気はないようだ。

 罪など犯していないのに、知らぬまに罪が増えていく。

 そして王太子殿下は、私の元の罪について話し始めた。



「お前は卑しい孤児だったにもかかわらず、ノスタルク公爵を騙して養子になったそうだな」



 騙す?王太子殿下は何を言っているのか。

 私が公爵家の養子になったのは、公爵が強く望んだから。

 私はあそこに残りたかった。だけど貴族には逆らえなかった。



「それはちが」


「『自分には帝国の高貴な血が流れている』」


「!」


「『だから国の迎えが来るまで公爵家で最高の生活をさせろ。さもなくば王国に何が起こるか分からない』と脅してな!」



 全部嘘だ。だから否定しなければ……



「っ……」



 けれどどうしてだか上手く声が出ない。

 それに寒いわけではないのに、身体が震える。



「たしかにお前の髪色は我が国では見かけない色だ。だかそれだけで帝国貴族の血が流れていると嘘をつき、公爵令嬢になろうとするなどあまりにも卑しい。さすが孤児だな」


「なっ……」



 私は決してそんなことは言っていない。

 嘘をついているのは公爵の方だ。

 大金が手に入ったと、院長が喜んでいたのを私は知っている。



「だよな、公爵?」



 王太子殿下に促され、公爵が前へと出てきた。

 そして公爵は、さぞ自分は被害者だというような口振りで話し始めた。



「はい、王太子殿下のおっしゃる通りです。この娘は『私を養子にしなければ帝国との友好はなくなる』と脅してきたのです」



 メノス王国とランカ帝国は、現在友好を結んでいる。

 けれどそんな子どもの言葉を公爵が信じたのかと、参加者たちは戸惑っていた。



「ええ、ええ。みなさんが戸惑うのも分かります。もちろん私も初めは戯れ言だと思い取り合いませんでした。けれどこの娘が言ったのです。自分は『祝福の一族』だと」



 公爵の発言のあと、さらに会場はざわついた。

 それもそうだろう。

 ランカ帝国の名前が出てきただけではなく、その次は聞いたこともない一族の名前が出てきて、参加者達は困惑しているのだ。



「知らないものも多いだろう。『祝福の一族』とは、ランカ帝国に実在する一族のことだ。

 銀色の髪に新緑の瞳の特徴があるとされている」



 王太子殿下がそう言うと、参加者たちの視線が一気に私へ向いた。

 あれが銀色?いや灰色だろ。

 そんな声があちこちから聞こえてくる。



「この女がそれをどこで知ったのかは分からないが、自分が『祝福の一族』であるかのように畏れ多くも高位の存在に成り済まし、まんまとノスタルク公爵家の養子になったというわけだ」


「なんてこと……」


「それは本当なのか?」



 参加者たちのざわめきは止まらない。

 けれど王太子殿下はそんなことは気にもせず、話を続ける。



「それだけではない!この女は公爵家の養子になっただけでは飽きたらず、無理矢理私の婚約者になったのだ。私には互いに想い合っているリリアンがいるというのに!」



 みなもこれまで疑問に思ってきた。

 なぜリリアンではなく私が婚約者なのかと。

 だけど今、その疑問に対する答えを知った。

 ああ、なんて非道な女なのか。

 王太子妃になりたいがために、想い合う二人を引き裂くなんて。


 この発言で周囲の視線が変わった。

 まるで私のことを非道な悪女だと、そんな視線が容赦なく突き刺さってくる。


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