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本物の公爵令嬢  作者: Na20


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30

 

「……こんな素晴らしいものを私なんかが受け取るわけにはいきません。……それにまだ婚約者のいる身ですし……」



「迷惑なのは分かっている。でもどうしても受け取ってほしいんだ」


「ですが」


「……この贈り物はね、私だけではなく他の人たちからの贈り物でもあるんだ。今はまだ名前を明かすことはできない。けれどその人たちもどうかミレイア嬢に受け取って欲しい、そうおっしゃっていたよ」



 テオハルト様が私の手をとる。優しくて温かい大きな手。

 なぜ?その想いが溢れそうになる。

 私に優しくしても得することなんてない。

 むしろ損しかしないだろう。

 けれど彼はそんなこと関係ないと言わんばかりに、優しくしてくれる。

 その優しさに私は救われていた。でもそれは理由を知らなかったから。

 優しくしてくれる理由を知るのが怖かった。


 知ってしまえば、この優しさがなくなってしまうのではと思ったから。

 だから彼の優しさに甘えた。彼がそれをよしとしてくれたから。

 でももう知らないふりはできない。

 彼とさよならをする今日、この淡い気持ちにも終わりを告げなければいけない。



「………どうして」


「え?」


「どうしてあなたは私に優しくしてくださるのですか?」



 今まで口に出せなかった疑問。

 今聞かなければ、もう二度と聞くことは出来ないだろう。

 どんな答えが返ってくるのかは分からない。

 でも私はどんな答えでも受け入れよう。そう覚悟を決めた。


 テオハルト様の返事を待つ。

 そして少しして、彼は口を開いた。



「……約束したから」


「約束……?」


「ああ。『レイ』を必ず迎えに行くってね」


「っ!」



 私のことをレイと呼ぶのは、あとにも先にもただ一人だけ。

 でもその人は私との約束なんてとうに忘れて……



「ミレイア嬢。私はいつだって『レイ』の味方だ。……それじゃあ会場で会おう。ベラ頼んだよ」


「かしこまりました」



 そう言ってテオハルト様は部屋を出ていった。

 そのあとの私は、ベラにされるがまま。

 気づけば贈られたドレスに着替えさせられていた。

 けれど私はそれどころではない。

 テオハルト様の言葉が気になって、他のことは何も考えられなった。



(あなたは本当にハルなの……?ねぇ……)



「……様、お嬢様!」


「っ!あ……ご、ごめんなさい」


「いえ私の方こそ大きな声でお呼びして申し訳ございませんでした。準備が終わりましたのでご確認をお願いします」



 ベラが声をかけてくれなければ、私はまだ思考の海に沈んだままだっただろう。

 彼女には悪いことをしてしまった。

 それに考え事をしているうちに、髪のセットも化粧も終わっていたようだ。


 この部屋に鏡はない。

 けれどそれも用意してくれたのだろう。

 ベラにうながされ、鏡の前に立った。



「……これが私?」


「はい。とてもお綺麗です」



 鏡に映る私は、まるで私ではないようだった。

 ドレスが動く度に、刺繍がキラキラ輝いているように見える。

 それにたまたまなのか、このドレスはホルターネックのデザイン。

 これならペンダントを着けたままでも大丈夫そうだ。

 首もとには上品なダイヤモンドが煌めき、靴もドレスによく合っている。

 髪は緩く一つに編まれ、メイクは私を普段より大人っぽく見せてくれている。



「お嬢様、そろそろ参りましょう」


「でもあの馬車じゃ」



 公爵が用意したあの馬車では、無事に会場までたどり着けるか分からない。

 しかしベラは、なんてこともないように言った。



「馬車はこちらで用意してありますので心配はいりません」


「……分かったわ」



 テオハルト様はどこまで先を見通しているのだろう。

 馬車まで用意してくれているなんて。


『いつだってレイの味方だ』


 先ほどの言葉を思い出す。

 できることなら卒業パーティーに行きたくない。

 パーティー会場に味方はいないだろう。

 嘲笑の的にされるのは目に見えている。



(……いえ、違うわね)



 そうだ。私には心強い味方がいる。

 彼が本当は何者なのか分からない。

 聞きたいこともたくさんある。


 もしも。

 もしも、この世界に神がいるというのなら、どうかもう一度――


 何かが起こるであろう卒業パーティー。

 私は胸に大きな不安と小さな希望を抱き、馬車に乗り込んだのだった。

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