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本物の公爵令嬢  作者: Na20


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「ああ。今少しいいだろうか」



 部屋への訪問者は、なんとテオハルト様だった。

 それなら先ほどの馬車は、公爵家への来客ではなくテオハルト様が乗っていたことになる。

 けれどなぜ。なぜ彼がここにいるのだろうか。

 彼もパーティーの準備があるはずなのに。



「はい……っ」



 急いで扉を開け、そしてドキリとした。

 なぜなら目の前にはランカ帝国の正装なのか、いつもの制服姿とは違うテオハルト様の姿があったから。



「突然来てすまない」


「い、いえ。ですがどうしてここに?パーティーの準備で忙しいはずでは……」


「ああ。実はミレイア嬢に渡したいものがあってね」


「渡したいもの……?」



 忙しいのにもかかわらず、わざわざここに来てまで渡したいものとは一体なんだろうか。



「侍女を部屋に入れても?」


「も、もちろんです」


「ありがとう。……入ってくれ」



 そう言うと、一人の侍女がたくさんの箱を抱え部屋へと入ってきた。

 箱は侍女の頭の高さまで積み重なっており、顔は見えない。



「あの、これは……」


「これは私たちからミレイア嬢への贈り物だ。どうか受け取って欲しい」



(私たち?)



 たしかにテオハルト様はそう言った。

 テオハルト様一人を指すのであれば『私』だ。

『私たち』であれば複数の人を指す。

 だけど私には『私たち』の心当たりが全くない。



「ベラ、箱を」


「はい」



 箱を置くように指示をすると、侍女は箱を床へと降ろした。

 そしてこれまで箱で隠れていた顔が顕になり……



「えっ……あ、あなた……」



 この侍女には見覚えがある。

 ベラと呼ばれた侍女。

 彼女はつい先日までこの屋敷で働いていたアンナだ。

 彼女が私の部屋をノックしてくれていた唯一のメイド。

 そんな彼女を見間違うわけがない。



「どうしてあなたが……」


「驚かせてしまい申し訳ございません」



 アンナ、いやベラか。彼女は深々と頭を下げた。

 驚いたのはたしかだ。でも謝る必要などない。

 テオハルト様のそばに仕えている。

 それだけで何か事情があったのだと理解できるから。



「……ベラ、頭を上げて。あなたが謝ることはなにもないわ」


「お嬢様……」


「ミレイア嬢すまない。これには事情があるんだ。今はあまり時間がないから話せないけど、パーティーの後必ず話すと約束する。だから……」



 真剣な眼差しで私を見るテオハルト様。

 彼がここまで言うのだ。今はそれを受け入れよう。

 ただ卒業パーティーの後に、彼と話をする時間が残されているかは分からないが。



「……分かりました。今は何も聞きません」


「ありがとう。では箱を」


「かしこまりました」


「これは……」



 ベラが箱を開けると、その中身はなんとドレスだった。

 品の良い緑色の生地に、銀糸で繊細な刺繍が施されている。

 一目見ただけで、このドレスが高級品だと分かる。


 それだけじゃない。

 他の箱には靴に手袋、ネックレスにイヤリングが入っていたが、どれもこれもこの公爵家で目にしたことがないような高価なもの。

 あまりの代物に目眩がしそうだ。




「これをミレイア嬢に受け取ってほしいんだ」



 テオハルト様はそう言うが、これらはすべて私の身に余るもの。

 私なんかが受け取っては、ドレスも靴もかわいそうだ。

 それにまもなく婚約は破棄されるとはいえ、今はまだ王太子殿下の婚約者。

 いくらテオハルト様の頼みでも、断らなければ。

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