15
あの日の翌日も、テオハルト様は変わらず私に声をかけてくれる。
私の噂などとうに耳に入っているだろう。
でもそんなことどうでもいいと言わんばかりに、あの子に似た優しい笑顔で私を見てくれた。
テオハルト様は毎日昼食に誘ってくれる。
なので最近は生徒会の仕事をしていない。
いや、していないというよりも押し付けられなくなったという方が正しいか。
あんなことがあったのだ。
テオハルト様の手前、私に仕事を押しつけられなくなったのだろう。
ざまぁみろとは思わない。でもこれが本来の形。
王太子殿下がきちんと仕事をやっているかは分からないが、それこそ私には関係のないこと。
ただ婚約者がいる身として、他の男性と二人で食事をするのはいかがなのかとは思う。
けれど相手はあのランカ帝国の皇子。
この国にテオハルト様に文句を言える人間などいない。
それはもちろん王太子殿下も含まれている。
でも文句を言わないだけで、目は憎々しげに私を睨んでいるが。
それにしてもなぜテオハルト様は、ここまで私によくしてくださるのか。
テオハルト様にお近づきになりたいと、たくさんの生徒が彼に熱視線を送っているというのに、その視線には一切答えない。
その代わりいつも私に声をかけてくれ、笑いかけてくれる。
私によくしても何の得もないのに……。
そんな想いを抱きつつも、なぜかテオハルト様といると穏やかな気持ちになれる。
それにどうしてだか、懐かしさを感じることもあったり。
ついこの間出会ったばかりのテオハルト様に、懐かしさを感じるのはおかしいと頭では分かっている。
けれどテオハルト様の笑った時の目元。
それがどうしても、私の大切な友達――ハルとすごくよく似ていると思ってしまうのだ。
ハルは私が六歳の時に孤児院にやってきた。
孤児院は親がいなかったり、親に捨てられた子どものための施設。
私は道端に捨てられていたのを、通りがかった商人に拾われて孤児院にやってきたそうだ。
みんな似たような理由でやってきた子どもばかり。
それなのにハルは違った。
本人から理由を聞いたわけではない。ただなんというか、纏っている空気が違うのだ。
それに着ている服は薄汚れてはいたが、よく見れば私たちの服とは質が違う。
髪も肌も乾いてパサパサしていない。
きっとあの子は特別な子なんだ。
幼いながらもそう思ったのを今でも覚えている。
ただ他の子どもたちは、誰もそんなこと気にしていなかった。
一人増えたことで食事の量が減ることしか、心配していなかっただろうから。
でも私はどうしても彼が気になった。
『大丈夫?』
だから彼に声をかけた。
『私ミレイアって言うの。何か分からないことある?』
それが私たちの始まりだった。
すぐに仲良くなった私たちは互いをハル、レイと呼び合うように。
不思議と彼とは波長が合った。
それはまるで、長い年月を共にしてきたかのような。
彼はとても八歳とは思えないほど物知りで、私にたくさんのことを教えてくれた。
明日の天気や星の名前、それにこことは違う国のことも。
彼と一緒にいるのはとても楽しかった。
けれど孤児院という、未来の不安定な場所で共にいることはそう簡単なことではない。
別れは突然訪れる。彼に迎えが来たのだ。
本当に彼のことが大好きだったから、お別れをするのが悲しかった。
でも迎えが来るということは、孤児院で暮らす子どもにとって、とても喜ばしいこと。
だから寂しい気持ちに蓋をして、笑って彼とお別れをした。
あの日の夕日が美しかったのは、今でも覚えている。
彼の髪が茶色ではなく燃えるような赤色に見えたのも、きっとそのせい。
それと別れ際にもらったペンダント。
これは結局手放すことができず、今でも身に付けている。
『必ず迎えに行く』
迎えは来ない。
そんなことは分かっている。
でもそれならどうして。
どうしてこんなにも胸を締め付けられ――
「――イア嬢、ミレイア嬢」
「はっ!」
「大丈夫か?」
「あ……」
そうだった。私は今、テオハルト様と馬車に乗っていたのだった。
疲れからか、馬車の揺れで微睡んでしまったようだ。
私としたことが、テオハルト様の前でこんな醜態を晒してしまうなんて。
「申し訳ございません……」
恥ずかしくて、すぐには顔を上げられそうにない。
そもそもなぜ、私がテオハルト様と馬車に乗っているのか。
それにはもちろん訳があった。




