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本物の公爵令嬢  作者: Na20


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 時を遡ること数時間前。


 今日は学園が休みだった。

 だからいつもより時間に余裕があるとホッとしていたが、それは長くは続かなかった。


『なんだか今日のお姉さまは暇そうね』


 公爵たちの前で放ったリリアンのこの一言で、私は朝から晩まで働くことになってしまったのだ。


 休みの日は王太子との逢瀬に忙しく、私のことなど眼中になかったリリアンが、突然こんなことを言い出したのは、私のことが気に入らないから。それ以外に理由はない。

 ただ存在が気に入らないといういつもの理由ではなく、私がテオハルト様に構われているのが気に入らないから。



「あのねお父様。お姉さまったら最近テオハルト様に言い寄るのに忙しくて、ネスト様の婚約者としての自覚が少し足りていないみたいなの。私、お姉さまの妹としてとても恥ずかしいわ……」


「なんだと?」



 こんなやり取りが急に始まったかと思えば、リリアンの発言もあり、最終的には暇なら働けと。

 当然拒否できるわけもなく。


 ただ私のことは何とでも言えばいい。

 けれどリリアンは許可もなく皇子殿下の名前を口にすることが、どれ程不敬なことか分かっていないのか。

 王太子殿下もそうだが、なぜ許可も得ていない人の名前を勝手に呼ぶのか。

 きちんとマナーを学んでいれば子どもでもそれくらい分かること。

 それなのに公爵たちも、誰一人として指摘しないなんて。


 この人たちが考えていることなんて分からない。

 けれどどうか本人の前では間違っても名前で呼ばないでほしいと、思わずにはいられなかった。



「あっ、今日はネスト様とお茶会の日だったわ。急がなくちゃ!……ふふ、頑張ってね、お姉さま?」



 結局リリアンは言いたいことだけ言って、王太子殿下とのお茶会があるからとさっさと出掛けていった。



「お前はこの家のためにしっかりと働け。分かったのならさっさと着替えてこい」


「……かしこまりました」



 どうせ私に選択肢なんて存在ない。

 ここで生きていくには、従うしかないから。


 この家の人たちはいつもこうだ。

 私を働かせたいだけなら、こんな茶番なんてしないでただ命令すればいいだけ。

 でもそうしないのは、私が傷つくのを見て嘲笑いたいから。

 お前はただの偽物。帝国の皇子がお前を構うのは、お前が公爵令嬢だから。

 公爵令嬢ではない孤児になど、なんの価値もないと。


 分かっている。

 そんなことは自分が一番理解している。

 だから私はこの人たちの言葉に傷ついたりはしない。

 淡い期待を抱いていた最初とは違い、今はもう何も期待してないから。


 身体的には辛い、ただそれだけ。

 泣いたり怒ったりするようなことはしない。

 そんな感情を抱くだけ無駄だ。

 ただこの家の人たちは、いまだにそれを理解してくれてはいないけれど。


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