クローゼットの中の絨毯
「ふつうのくま」をご存じですか?
小説を本格的に書き始めたのは、三十近くのことでした。
まだ未婚で、実家住まい。無茶なことに自営業を始めたあたりでした。
当時はまだワープロ「書院」で書いていました。懐かしい。ちなみにまだありますし、なんなら使えます。使いませんが。
そんなわれで、当時書いていたのは、BLでした。分かりやすい。それで、なんとすらすら百枚と少しくらいの作品が完成した時、悩みました。
某BL小説雑誌の新人賞に出すかどうか、でです。
いまと違って、そのころの投稿といえば紙に印刷したものを郵送していたのです。タグをつければ、はいOKという現代とは違います。
それに、新人賞だなんて、そんなだいそれた作品だろうか。
まちがって、大賞を取っちゃったりしたらどうしよう(取りません)。
子供の頃からあこがれてきた、作家になりたい。でも、投稿する勇気もない。情けないなあ。
うじうじ悩んでいた時に、「ふつうのくま」(佐野洋子)を思い出しました。
「ふつうのくま」は、普通に暮らす熊が主人公の絵本です。
熊は、はちみつをなめて、仲良しのネズミと日向ぼっこして日々を平和に暮らしています。でも、決して満たされないのです。なぜなら、クローゼットのなかにおじいさんのおじいさん(だったかな、うろ覚え)が空を飛んだという絨毯が入っているからです。
熊は自分も絨毯で飛んでみたいと思うのですが、勇気がわかないのです。
それで、しょっちゅう泣いたりするんです。はちみつをなめながら。
ネズミは、今のままで何が不満なのか理解できないのです。
……そんなお話なんですね。
わたしに似ているな、と思いました。新人賞に出したならもしかして作家になれるかもしれない。
でも、失敗したらどうしよう。だいいち、郵便局へ持っていくのも恥ずかしい。
絵本の熊と一緒です。
ものすごく悩んで、悩んで、わたしは新人賞へ出すことにしました。
そのためには、まずその雑誌を買わねばなりませんでした。応募券が必要だからです。BL小説雑誌を。Amazonはない時代です。書店で買うの、とっても緊張したことを覚えています。
それで、印刷して、体裁を整え、封筒に入れたなら多めの切手を貼って、ポストに投函しました。
結果は、Aクラスでした。いちおう入選一歩手前のクラスでした。
そんなこんなで、その新人賞には二回チャレンジして、二回目には「期待賞」をいただきました。
その後、いきなり結婚して妊娠出産子育てで、小説を書くことから離れました。
復帰したのは、十二年後でした。
何かに挑戦するとき、わたしはいつもクローゼットの中の絨毯を思い浮かべます。
勇気を出して、絨毯を引っ張り出して飛び乗るのか(飛ぶかどうか、分からないけれど)。
公募に出すとき、そんな気持ちでやっています。
「ふつうのくま」、お話の結末は図書館で探して読んでみてください。
あのまま頑張っていたなら、BL作家になれたでしょうか。
頑張ればよかったのかなー。
人生にはタイミングってものがあるから、しかたないか。
そして今も作家デビューはしていない。




