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伏線を全部無視していたら世界を救ってしまった件  作者: 春野ケイ
世界がおかしくなり始める

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25/27

第25話 消えない違和感

村人たちとともに山を下りる頃には、西の空が赤く染まり始めていた。


救出された村人たちは、焼け跡の残る村へ戻ると、それぞれ自分の家へ足を向ける。


「家が……。」


焼け落ちた屋根を前に立ち尽くす者。


無事だった家財を見つけ、安堵の息をつく者。


家族と抱き合い、涙を流す者。


静かだった村に、少しずつ人の声が戻っていった。


リクはその様子を見つめ、小さく笑みを浮かべる。


「戻って来られて、本当によかったですね。」


「ええ。」


ミアも穏やかにうなずいた。


しかし、まだ終わりではない。


倒れた柵。


散らばった木材。


焼け焦げた荷車。


村には、まだ手を貸さなければならない場所が数多く残されていた。


「できることを手伝いましょう。」


リクがそう言うと、返事を待つまでもなく歩き出す。


倒れた木材を持ち上げ、道を塞ぐ瓦礫を一つずつ運び始めた。


「私も手伝います。」


エルナも袖をまくり、散らばった木片を集め始める。


ミアは傷を負った村人たちのもとへ向かい、治癒魔法をかけて回った。


「無理はしないでください。」


「今日は体を休めることも大切です。」


レオンは周囲を見渡すと、黙って倒れた柵を起こし始める。


誰かに頼まれたわけではない。


それでも、ごく自然に体が動いていた。


アルドは近くで困っている老人を見つけると、荷物を運ぶのを手伝っている。


「ありがとう。」


老人が何度も頭を下げる。


アルドは照れくさそうに笑った。


「困った時は、お互い様じゃ。」


その光景を見たレオンは、ふと口元を緩める。


いつの間にか、自分もこの輪の中で動いている。


そんな自分に気付き、小さく苦笑した。


リクはそんなレオンに気付き、笑顔で声をかける。


「レオンさん。」


「その柵、こっちを先に直した方がやりやすいですよ。」


「……そうですね。」


レオンも笑ってうなずく。


二人は力を合わせ、大きく傾いた柵を元の位置へ戻した。


村には、少しずつ穏やかな時間が戻り始めていた。


一段落した頃には、空はすっかり夕焼けに染まっていた。


村人たちは協力し合いながら、焼け残った家財を運び出している。


村の中央では、あの村長が深々と頭を下げた。


「皆さん、本当にありがとうございました。」


「皆さんがおらんかったら、この村は終わっておりました。」


リクは慌てて手を振る。


「頭を上げてください。」


「皆さんが無事で、本当によかったです。」


村長はゆっくりと顔を上げる。


その表情には疲れがにじんでいたが、どこか安堵の色も浮かんでいた。


レオンが静かに尋ねる。


「一つ、お聞きしてもよろしいですか。」


「黒き竜軍は、あなたに何を聞いていたのですか。」


村長は少し考え込み、小さく息をついた。


「それが……。」


「わしにも、さっぱり分からんのです。」


五人は顔を見合わせる。


「『この近くにあるはずだ。』」


「『隠しても無駄だ。』」


「『勇者より先に見つける。』」


「何度もそう聞かれました。」


村長は力なく首を横に振る。


「じゃが、この村は昔から小さな村です。」


「宝が眠っているという話もなければ、特別な遺跡があるという話も聞いたことがありません。」


ミアは静かに腕を組んだ。


「つまり、村長さんにも心当たりはない、と。」


「はい。」


「何度考えても思い当たらんのです。」


エルナは村の景色をゆっくりと見渡した。


焼けた家。


倒れた柵。


長く続いてきた、ごく普通の村。


少なくとも、見た目には特別なものは何一つない。


それなのに、黒き竜軍はこの村を襲った。


しかも、村長だけを執拗に問い詰めた。


その理由だけが、どうしても見えてこなかった。


リクは村長へ優しく笑いかける。


「思い出せないなら、それで大丈夫ですよ。」


「無理に思い出そうとしなくても大丈夫です。」


村長はその言葉に少し目を丸くしたあと、静かに笑った。


「……ありがとうございます。」


「そう言っていただけると、気持ちが少し楽になります。」


夕暮れの村に、穏やかな風が吹き抜けた。


しかし、その風の中にも、誰にも説明できない小さな違和感だけは、静かに残り続けていた。


村長との話を終えると、リクたちは村の外れにある切り株へ腰を下ろした。


夕日が山の向こうへ沈み始め、村には穏やかな空気が流れている。


「少し休みましょう。」


ミアがそう言うと、全員が小さくうなずいた。


アルドはそっと杖を地面へ立てかける。


その瞬間だった。


エルナの視線が、杖へ吸い寄せられる。


「……。」


「どうしました?」


リクが尋ねる。


エルナは少し迷ったあと、静かに口を開いた。


「この杖です。」


「前から気になっていたんですが……。」


アルドは不思議そうに杖を見つめる。


「この杖が、どうかしたかのう。」


「うまく言えないんです。」


エルナは杖へ一歩近づいた。


「魔力とは少し違う気配を感じます。」


「でも、それが何なのか分からなくて……。」


ミアもゆっくりと杖へ目を向ける。


「私も同じです。」


「普通の杖ではありません。」


「何かが宿っているような……そんな感覚があります。」


レオンも静かに腕を組んだ。


「戦っている時から気になっていました。」


「見た目は古い杖ですが、ただの杖とは思えません。」


アルドは困ったように笑う。


「そんな大した物ではないと思うんじゃがな。」


そう言いながら杖へ手を伸ばす。


その途端、アルドの表情が変わった。


「……この杖は。」


四人が一斉にアルドを見る。


「何か思い出しましたか?」


ミアが静かに尋ねる。


アルドは目を閉じたまま、苦しそうに額へ手を当てる。


「いや……。」


「何か思い出しかけたんじゃが……。」


「駄目じゃ。」


「もう思い出せん。」


そう言って、小さく首を横へ振った。


リクはそんなアルドの肩を軽く叩く。


「思い出せないなら、無理しなくていいですよ。」


「そのうち思い出します。」


アルドは少し驚いたようにリクを見ると、穏やかに笑った。


「そうじゃな。」


「焦っても仕方ないのう。」


しかし、そのやり取りを見つめるエルナの胸には、言葉にできない違和感だけが静かに残り続けていた。


村に夜の帳が下り始める頃には、倒れていた柵も応急処置が終わり、道を塞いでいた瓦礫も片付いていた。


村長は改めて五人の前へ立ち、深く頭を下げる。


「本当にありがとうございました。」


「皆さんのおかげで、この村はもう一度やり直せます。」


「困った時はお互い様です。」


リクは照れくさそうに笑った。


「今度ここへ来る時は、ゆっくり遊びに来ますね。」


その言葉に、村人たちから自然と笑みがこぼれる。


重かった空気が、ようやく少しだけ和らいだ。


翌朝。


朝日が山の向こうから顔を出す頃、五人は旅支度を整えていた。


村人たちが見送りに集まっている。


「皆さん、お元気で。」


ミアが静かに頭を下げる。


エルナも笑顔で手を振った。


「ありがとうございました!」


リクも大きく手を振り返す。


「また来ます!」


その隣では、レオンが荷物の紐を締め直していた。


「リクさん。」


「食料は昨日のうちに補充してあります。」


「水袋も全員分、確認しました。」


「あ、本当ですか!」


リクは嬉しそうに笑う。


「ありがとうございます!」


「いえ。」


レオンは穏やかに首を振る。


「これも私の役目ですから。」


そのやり取りを見ていたミアは、小さく笑みを浮かべた。


昨日まで一人で旅をしていたレオンが、もう当たり前のように仲間のことを考えて動いている。


誰も口にはしなかったが、その変化は自然で心地よいものだった。


「では、行きましょう。」


リクの一言で、五人は歩き始める。


見送りに来た村人たちへもう一度手を振り、村をあとにした。


朝の風が心地よく吹き抜ける。


しばらくは誰も言葉を交わさず、それぞれの足音だけが街道に響いていた。


しばらく街道を歩いた、その時だった。


アルドが、不意に足を止める。


「……どうしました?」


ミアが振り返る。


アルドは北の方角をじっと見つめたまま動かない。


まるで、誰かの声に耳を澄ませているようだった。


「アルドさん?」


リクが近づく。


アルドはゆっくりと口を開いた。


「……誰かがおる。」


四人は思わず顔を見合わせる。


「誰か、ですか?」


エルナが辺りを見回す。


しかし街道の先にも、森の中にも、人影は見当たらない。


アルドは困ったように首をかしげた。


「分からん。」


「じゃが……。」


「誰かが、待っておる。」


レオンは荷物から地図を取り出し、北の方角を確認する。


「この先には村も町もありません。」


「人がいるとは考えにくい場所です。」


ミアは静かにアルドを見つめた。


「また……違和感ですね。」


アルドは申し訳なさそうに笑う。


「すまんのう。」


「また、口が勝手に動いてしもうた。」


しばらく沈黙が流れる。


誰も、その言葉の意味を説明できなかった。


すると、リクがいつもの笑顔で口を開く。


「アルドさんがそう言うなら、行ってみましょう!」


あまりにも迷いのない一言だった。


ミアは苦笑し、エルナは小さく笑う。


レオンも肩の力を抜き、静かに笑みを浮かべた。


「そうですね。」


「ここまで来たら、確かめないわけにはいきません。」


五人は再び北へ向かって歩き始める。


その先で何が待っているのか。


まだ誰も知らなかった。


次回『迫る黒き竜軍』

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